今季、ようやく一皮むけた投手がいる。2016年ドラフト5位で松山聖陵高からカープに入団したアドゥワ誠である。当初は長身(196㌢)のスリークオーターから投げる角度のある球のキレの良さが特徴だったが、今季は少し腕を下げた投げ方で大きく変身した。彼が頭角を現したのは、入団2年目の18年シーズン。主に中継ぎとして53試合に登板し、6勝2敗5ホールド(防御率3.74)で、カープのリーグ3連覇に貢献した。その後は先発としても投げ、19年には19試合に登板し3勝5敗(防御率4.32)を記録したが、ローテーションの一角を担うほどには至らなかった。その後、2軍で投げていた20年に利き腕の右肘を故障、10月に手術に踏み切った。そして21年はリハビリのため公式戦の登板はなし。ようやく22年に2軍で復活を果たしたものの、1軍登板はなかった。苦しい日々が続いたが、光が差し始めたのは23年後半に1軍昇格した時だった。延長戦で全選手を使い切った8月のヤクルト戦で、アドゥワは涼しい顔で延長11、12回を無失点で切り抜けた。そしてジワリと首脳陣の信頼度を上げた。今の彼の持ち球は、ゾーン内で打者のバットの芯を外すように動く変化球…と思っているファンが多いと思う。しかし本人は「普通に真っすぐを投げているつもりです」と言う。そう、彼の渾身の投球はナチュラルに変化するのだ。つまり球が動く時は、気合が入っていると見てよい。先発投手陣のレベルが高い今季、彼が安定してローテーションの座を守れるかどうかに注目している。

プロフィル

迫 勝則(さこ かつのり) 1946年生まれ。マツダ退社後に広島国際学院大学部長などを務め、執筆・講演活動を続ける。近著は「森下に惚れる」「逆境の美学」

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