マツダ、広島大学、広島県など産学官でつくる、ひろ自連は発足10周年を迎える。田邉昌彦議長にこれまでの実績、新しい取り組みなどを聞いた。
―10周年を迎えます。これまでの実績をお聞きします。2015年にものづくり産業の成長、人材育成、集積による地域経済の活性化を目指す産学官連携組織として発足。カーボンンニュートラル(CN)、DXへの対応、高齢社会、過疎化が進む中、車の新たな利用価値の創造など社会課題に対応するため、20年に組織再編し三つの委員会(クルマづくり価値創造、クルマ利用価値創造、イノベーション人財育成)を新設し、その下に八つの専門部会を配しました。広島は自動車の完成品メーカーとサプライヤーが集積する特別な地域で、研究開発機能を持つ企業の集積は関東、東海のほか、西日本では広島だけです。このアドバンテージを生かし広島の自動車産業の競争力を強化するためには産官学の連携が不可欠。今後はサプライヤーも巻き込んだCNへの対応に加え、次世代・即戦力のものづくり人材を育み、広島への定着を促していきたい。―デジタルものづくりの進ちょくは。23年、クルマづくり価値創造委を中心にひろ自連の各専門部会、広島大学、行政機関が参画するMBD(モデルベース開発)ステアリングコミッティを設置。サプライヤーも含めMBD・DXによる効率的な開発・生産を目指す体制づくりを進めています。また、技術人材の育成に向けて24年度は新たに「人間計測技術(総論、感性評価、商品開発プロセス)」、「自動車関連企業の知財マネジメント」、「実践型ビジョンマネジメント」の講座を始め、12月までで28講座を計713人が受講しました。―感性ものづくり技術はどうですか。15年からダイキョーニシカワ、ヒロテック、東洋シート、ヒロタニ、南条装備工業の5社が参加し、「高質」「安心・安全」「乗降しやすさ」「居心地のよさ」「疲れにくさ」の車室内空間の感性モデル開発に取り組んでいます。昨年11月のシンポジウムで、講師の信州大学・吉田宏昭教授から高い評価を受けました。―次世代バイオ燃料の開発は。次世代バイオ燃料技術の普及支援と地産地消に向けた藻類培養設備による実証実験に取り組んでいます。マツダの本社工場内に藻類の培養水槽があるほか、食用廃油にも対応するバイオ燃料車で走行実証を実施。乗用車7台計9万2000㌔、バス1台3000㌔の走行実績があります。次世代バイオ燃料は生産コスト、安定供給、供給網整備などが課題です。23年6月に発足した中国地域CN推進協議会(事務局・中経連)のCN燃料推進部会に参加し、利用拡大に向けた活動の輪を広げています。―人材育成の取り組みは。イノベーション人材の育成に向け昨年10〜12月に近畿大、広島工業大、山口大、岡山大の工学部生を中心に、CN実現に向けた講義と、バイオディーゼル実証実験車のデモンストレーションを実施。また県内の小学校10校の5、6年生を対象に、センサー感知し衝突防止で停車する自動車型ロボット「ひろ自連号」を使ったプログラミング教育も行いました。―最近の新しい取り組みは。昨年9〜10月に広島大、叡啓大、県立広島大の大学生とひろ自連の専門部会長各5〜6人の座談会を計6回開きました。自分の将来像、職業観、都市としての広島の印象、自動車産業・ものづくりの印象などについて意見交換。就職では「自分自身の成長やキャリアアップの機会が得られること」を重視する学生が多く、製造業に対しては「理科系で体力求められる」との印象を持つ人がいました。「自動車産業は開発やデザイン、海外事業など活躍できる分野が広い」という投げ掛けにも「具体的イメージがしにくい」という返答があり、学生への情報発信の不足を感じました。現在詳細を分析中で、今後の活動に反映させたいと考えています。
プロフィル

たなべ まさひこ1955年3月29日生まれ、福山市出身。78年に名古屋大法学部を卒業し、広島県に入庁。商工労働部新産業振興室長、環境部環境対策局長、総務局財務部長、総務局経営戦略審議官などを務め、2014年3月退職。広島県環境保全公社理事長、広島県信用組合常務理事などを経て、18年4月から広島県副知事。23年にひろしま産業振興機構代表理事副理事長、ひろ自連議長に就任。趣味はテニス。
担当記者:大谷