2013年ドラフト1位で入団した大瀬良大地を11年間も観察している。中でも今季の彼が一番好きだ。喜怒哀楽や闘志を前面に出し、一丸となって戦う姿が美しく頼もしい。私にとって彼の原点は、シーズン途中に先発から中継ぎに転向した15年10月7日の中日との最終戦にある。クライマックスシリーズ進出をかけた8回。0-0の場面で、当時のエース・前田健太の後を継いだが、中日打線に痛打を浴び0-2で降板し、敗戦投手となった。ベンチで涙を流した大瀬良が、そのシーズンオフに大リーグに赴くことになる前田に肩を抱かれ慰められたシーンを思い出す。少しひ弱なイメージがどうしても消え去らなかったのだ。ただ再び先発に戻った大瀬良は、その不安を払拭した。ローテーションの柱となり、19年からは5年連続で開幕投手を担った。その間、選手会長を務めるなどチームを引っ張る存在に。しかし私はそれでも、どこか〝真のエース〟と呼びにくいものを感じていた。その理由は、チームを背負って投げる圧倒的なオーラの少なさとプレー中の表現力だった。しかし今季は変わった。開幕投手を九里亜蓮に譲ったことや、故障明けという事情もあったと思うが、その姿がたくましく見える。6月7日ロッテ戦では、史上90人目のノーヒットノーランを達成。ピンチになると内野手に声をかけ、速球を軸に強気に攻める。抑えたら以前ではほとんど見られなかったガッツポーズ。マウンドを降りても、ベンチで大声を出し続ける。これが、私が11年間も待ち続けた真のエース・大瀬良の姿である。
プロフィル
迫 勝則(さこ かつのり) 1946年生まれ。マツダ退社後に広島国際学院大学部長などを務め、執筆・講演活動を続ける。近著は「森下に惚れる」「逆境の美学」