カープというチームは常に、攻守でアグレッシブな遊撃手を先頭にして戦ってきたというイメージがある。伝説の高橋慶彦、チームリーダーだった野村謙二郎、〝タナキクマル〟でリーグ3連覇に貢献した田中広輔。いずれも盗塁王を獲得している。今季から当たり前のようにスタメン起用されるようになった矢野雅哉が、今その可能性を試されている。6月23日中日戦。4回2死満塁の場面で空振り三振を喫した矢野は、8回2死一、二塁の場面でも打席に向かった。そこまで打撃不振が目に見えていたのに、新井貴浩監督は1-1の均衡を破るために待機していた代打・松山竜平を制し、その場を矢野に任せた。しかし、矢野は再び空振り三振。このシーンに私は、新井監督の強いメッセージを感じた。入団4年目。今季、菊池涼介と鉄壁の二遊間を誇り、粘り強い打撃でチームに貢献し続ける彼のプレースタイルが、高い評価を受け始めたからである。小学校3年のときに父から教えられたトレーニング方法により、徹底的に手首を鍛えた。その強肩について、彼は話す。「どんな打球に対しても全力でアウトを取りにいくためです。投手が必死に投げて打ち取った球ですから」。その堅い守備は健在ながら、一時打撃の粘りに陰りが見え始めた時もあった。おそらく初めて経験する長丁場(疲労蓄積)のせいもあったと思う。ただこれはレギュラーの誰もが通ってきた道である。あの中日戦の試合直後。一人ベンチに残り、勝利に湧くスタンドを見つめていた矢野の心の中に芽生えたものに期待している。
プロフィル
迫 勝則(さこ かつのり) 1946年生まれ。マツダ退社後に広島国際学院大学部長などを務め、執筆・講演活動を続ける。近著は「森下に惚れる」「逆境の美学」