5月戦線で面白かった試合の一つに、4日のDeNA戦がある。先発・森下暢仁の投打の活躍によってカープが4-1で逆転勝ち。実は複数のテレビ局アンケート調査で、昨季一番面白かった試合とされたのも、「森下のプロ初の3ランで逆転勝ちした6月28日DeNA戦」だった。この4日の試合がなぜ面白かったのかを検証してみる。好投していた森下は、2回表に味方の2失策から先制点を許し、7回表まで0-1。そこまで被安打2の投球に新井貴浩監督は「ナイスピッチング!」と絶賛していた。マウンドで笑顔を見せる余裕もあり、ランナーが出た時だけギアを上げるプロフェッショナルな投球だった。しかし味方打線が0点では勝てない。カープはランナーを出すものの、ホームが遠い。そんな中、3三振だった7番・中村健人、安打が出ない8番・二俣翔一の後を打つ9番・森下の肩の力を抜いた「脱力打法」がやけに目立つ。7回裏、そこまで既に1人で2安打していた森下が、1死から放ったこの試合3本目の左前安打が、一気に反撃ムードを生み出した。その後、チャンスが拡大。森下は野間峻祥の二ゴロの間に生還し、ついに同点に追いついた。圧巻は、なお2死一、三塁の場面。代打で登場した松山竜平の目の覚めるような右翼席中段への3ランだった。ヒーローインタビューに呼ばれた松山が、森下の前でこう言った。「暢仁の脱力打法を参考にして打った」。野球というのは、投手を含めた9人で攻めるのが面白い。今季も森下が投げる試合は、特に楽しめる。
プロフィル
迫 勝則(さこ かつのり) 1946年生まれ。マツダ退社後に広島国際学院大学部長などを務め、執筆・講演活動を続ける。近著は「森下に惚れる」「逆境の美学」