4月10日の阪神戦は4試合連続完封負けを喫した後の特別な試合になった。勝敗の前に、まず1点が欲しい。1回表、先頭の野間峻祥が右翼線二塁打で出塁。続く菊池涼介はこれまでになかった犠打を初球で決め、1死三塁とした。そして今季3番に定着した小園海斗が打席に入った。昨季までの小園なら、初球からフルスイングしていくところだ。しかし、目の前には全く違う小園がいた。前進守備を敷かなかった内野手のポジションを確認した小園は、意図的に弱いスイングで遊撃手の前に緩いゴロを転がした。これは自主的に自らを犠牲にするスクイズの考えに近い。カープは37回ぶりに得点を挙げ、6-2で勝った。そしてリーグワースト記録の更新を免れた。ここに至るまでには、忘れてはいけない物語がある。昨季の序盤戦。小園が2軍に降格した本当の理由は、打撃不振ではなかった。彼はあふれる才能を持ちながら、チームへの貢献意識が低く、評価が厳しかったのである。その時、小園の凡打をベンチでジッと見ていた新井貴浩監督は、試合後にこう語った。「あのショートゴロを見て、小園が成長したなと感じた。守備の陣形も見ていたと思うし、いろいろなものを背負っての打席だった」。小園は今季、確実に一皮むけた。初球から振りにいっていた超積極打法から、むやみにバットを振らない〝チームへの貢献打法〟に変えた。その気持ちの底にあるのは、主力打者としての自覚である。小園がようやくレギュラーの座を勝ち取った。今や〝カープの看板選手〟の一人である。
プロフィル
迫 勝則(さこ かつのり) 1946年生まれ。マツダ退社後に広島国際学院大学部長などを務め、執筆・講演活動を続ける。近著は「森下に惚れる」「逆境の美学」