2022年オフに新井貴浩監督が就任した際、ちょっとうれしいことがあった。それは彼が「自分で育てたい選手」として、ルーキーイヤーを終えた田村俊介(愛工大名電高から21年ドラフト4位で入団)の名前を挙げたことだった。実はそのちょうど1年前、私も当コラムで田村の名前を挙げ、特別な期待感を書いていた。田村は監督の期待通り、23年に頭角を現した。開幕1軍入りを果たし、その後1、2軍を行き来したものの、9月12日のヤクルト戦に「7番・レフト」でプロ初スタメン。そして大方の予想を覆し、その後6試合連続で安打を放ち続けた。しかし試練が容赦なく彼を襲う。田村は17日の中日戦で左手に死球を受け「左小指中手骨骨折」と診断され、その後、治療とリハビリでシーズンを終えた。田村の持ち味は、スイングの柔らかさと思い切りの良さである。1年目は強い打球を飛ばそうとして、力みが消えなかった。しかし師匠と仰ぐ松山竜平のアドバイスを得て、打ち方が打席を重ねるごとに変化していった。田村は言う。「1年目は必要以上に体に力を入れてバットを振っていたが、松山さんから力を抜くポイントを教わってから、バットをしならせて打てるようになった」。今季はブレークの予感がある。西川龍馬のFA移籍で外野の一角に空きができたことも大きい。そこに名乗りを挙げる20歳は、今季の注目選手の一人である。昨季の日本代表との練習試合で2安打を放った田村には井端弘和監督も目を付け、2月7日の日南視察で声を掛けた。何かのドラマの始まりかもしれない。
プロフィル
迫 勝則(さこ かつのり) 1946年生まれ。マツダ退社後に広島国際学院大学部長などを務め、執筆・講演活動を続ける。近著は「森下に惚れる」「逆境の美学」