独立系広告会社の山広(島根県出雲市、従業員34人)は1960年に設立されました。折込チラシ事業からスタートし、印刷子会社を設立、レイアウトやデザインなどからワンストップで受注できることを強みに、独自のフリーペーパー発行、スーパーなど流通系の広告などを手掛け、山陰でトップクラスの業容を有するに至りました。山広の二代目で会長の渡部孝氏(当時72歳)には娘がいたものの会社を継ぐ予定は無く、親族外の渡部淳氏(同51歳)が社長に就任していました。他方、株式は役職員で継ぐことも難しく、悩んだ末、2020年2月、地元銀行から紹介を受けた事業承継ファンドのAJキャピタルに承継することになります。当初はファンドに承継することへの不安もあったようですが、地元銀行も出資しているファンドで安心感があり、事業会社に承継するより、ファンドのネットワークを活用してネット広告など折込事業以外の強化を図るほうが、会社にとって良いとの決断になりました。AJキャピタル(東京都)は、あおぞら銀行が上場ベンチャーキャピタルと共同出資で18年に設立した中小企業の事業承継に特化したファンドの運営会社。銀行とベンチャーキャピタルの両方の知見を生かした支援が特徴です。あおぞら銀行グループは事業承継コンサルティング業務を強化しており、特に、広島を含む西日本地域において、事業承継の円滑なサポートや、取引顧客の紹介などを行っています。承継に一段落したのも束の間、コロナ禍が襲い、売り上げは激減。BtoB中心の販路からBtoCへの参入に活路を見いだすことにしました。AJキャピタルのサポートのもと、顧客に対するEC参入支援提案、印刷子会社については親会社に頼らない受注獲得、農産物栽培や倉庫貸しなど、新しい施策の検討を行いました。併せて、印刷設備が老朽化していながら踏み切れなかった一部業務の外注も実施し、コストの低減を実現。組織面では、渡部社長を中心に、渡部元会長不在でもやっていけるための体制を確立しました。コロナ禍が長期化する中、AJキャピタルの経営参画から約2年弱が経過し、山広の業務に理解のある地元有力企業へのグループ入りを模索。21年に地元で圧倒的知名度のある山陰中央テレビジョン放送(TSK)に承継することになります。TSKにとっても有力な媒体力・顧客を獲得することになり、メディアとして強固な基盤をつくる機会となりました。AJキャピタル承継時に顧問に就任していた渡部元会長は、TSKへの承継を見届けた22年に退任。渡部社長は現在も続投しています。山広は、地元有力企業グループのもとで、さらに成長、発展が期待されます。
プロフィル

ひろしまイノベーション推進機構坂本 直宏 マネージング・ディレクター