電通が発表した2023年の国内総広告費は、7兆3167億円と過去最高を更新しました。その原動力となったのはインターネット広告費で、前年比7・8%増の3兆3330億円と過去最高を更新し、その構成比は45・5%に高まりました。一方、マスコミ四媒体広告費は3・4%減の2兆3161億円にとどまり、ネット広告費に21年に追い越されて以降、その差は拡大しています。このようにマス広告費は減少を続けていますが、マス広告は役割を終えたとか、不要になったということではありません。それぞれに特徴があり、使い分けることが重要です。マス広告は幅広い層に届き、認知度向上に効果的で、信頼性が高いという特長があります。シニア層へのアプローチには特に有効です。一方でインターネット広告の強みは、ターゲットを細かく設定でき、興味関心の高いユーザーにアプローチできることです。また少額の予算から始められ、費用対効果が高いことや、効果測定を簡単に行えて迅速に改善につなげられるのが特長です。しかしながらそのネット広告も完璧ではありません。その成長と効率を支えてきたユーザー追跡が制限されるようになり、ターゲティングや効果測定が難しくなりつつあります。さらには広告ブロッカーが普及し、広告が表示されないこともあります。ネット広告が台頭していますが、マスメディアの持つ影響力や信頼性は健在です。それぞれの得意分野を生かして戦略的に活用することが重要です。ターゲティングやリアルタイムのデータ分析が求められる場合はネット広告を、広範なリーチや認知度の向上を狙う場合はマス広告を利用するのが効果的です。双方を組み合わせて相乗効果を狙うクロスメディア戦略も有効です。以下に具体的な組み合わせの方法を説明します。

①統合型キャンペーン同じメッセージを複数のチャネルで一貫して配信することで、ブランド認知度を高めてリーチを最大化します。テレビ広告で新商品を発表して認知度を高めるのと同時に、ネット広告でターゲットを絞って商品詳細を発信する。あるいは、新聞広告で大規模なセールを告知して既存顧客へメールやSNSキャンペーンで直接的なリマインダーを送信するという方法です。②クロスメディア・リターゲティングマス広告で広範囲にリーチした後、ネット広告を使って関心を示したユーザーに再アプローチします。ラジオ広告やテレビCMでクーポンコードを配布し、クーポン利用でサイトを訪れたデータを基に、グーグルなどのリターゲティング広告を使って、購入を促進する方法です。③地域ターゲティングと拡張リーチマス広告を展開し、特定地域のユーザーに対してネット広告でフォローを行います。例えば新聞広告で新店舗オープンを告知し、地域を絞ってネット広告で詳細情報やクーポンを提供します。あるいは、ラジオ広告でイベントを告知してユーチューブ広告でイベントのハイライトを共有する方法も考えられます。ネット広告の発展は、確かに広告業界に大きな変革をもたらしました。しかし、マス広告が不要になるわけではありません。両者にはそれぞれ異なる強みがあり、適切な方法で使い分けたり、組み合わせることでより良い効果を発揮します。

プロフィル

宮田 庄悟 (みやた しょうご)1956年1月3日生まれ、和歌山県出身。早稲田大学を卒業し、79年4月に電通入社。東京、ニューヨーク、北京、ロンドンでマーケティング、イベント、スポーツ業務に従事。「ラグビーワールドカップ2019組織委員会」の広報・マーケティングなどを担当。20年4月から現職。

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