マーケティングで「インサイト」とは単なる情報やデータを超えたものです。「洞察」や「発見」を意味するインサイトは顧客自身も気付いていない潜在ニーズや動機の洞察を指します。顧客が本当は何を買っているのか。例えばスターバックスで顧客はコーヒーではなく、家庭や職場に次ぐ「第三の場所」という空間や時間を買っているといったことです。これは顧客の行動や意思決定の背後にある本質的な欲求を明らかにすることです。表面的なニーズだけでは分からない「真の欲求」を理解することで、より効果的な商品開発やマーケティング戦略を実行できます。

「真の欲求」を理解する

消費者はアンケートに対して表面的なニーズや要望を答えます。しかし、その背後にはより深い心理的、感情的な動因が存在します。高級車を買う場合、ただの移動手段ではなく、地位や自己表現の手段という動因があるはずです。この本音を理解することが戦略決定には不可欠です。ユニクロのヒートテック開発を例に挙げましょう。冬用のインナー開発のためにアンケートを実施し、そのデータを基に丁寧なインタビュー調査を行ったそうです。その結果、冬のインナーとしてそれまでの厚手の素材ではなく、「薄い冬用インナー」が求められているインサイトを発見しました。着用時のスタイルを犠牲にせずに温かさを保ちたいという消費者の「真の欲求」に応えたのです。インサイトの発見にはアンケートや分析を通じてデータを集めるフェーズと、それを量的・質的に分析するフェーズがあります。ネットは双方向なので顧客データを豊富に収集できます。広告への反応や自社サイト上での行動履歴は貴重なデータです。これらを注意深く分析すれば、顧客の潜在的な欲求や動機につながるインサイトを読み取れます。集まったデータからインサイトが自然に発見されることはありません。自身の経験や顧客の声を基に顧客の本音についての仮説を立て、そこからデータ収集・分析を始めましょう。

効果的なデータ収集

データ収集にはさまざまな方法があります。先述のユニクロのように丁寧なアンケート調査から顧客の意見を把握したり、顧客の声やSNSの投稿を自然言語処理ツールで分析することもできます。販売拠点や使用現場の観察も大きなヒントになるでしょう。また、競合会社の活動やトレンド分析も重要な方法です。簡単に始めるためには、まずは問い合わせや苦情からキーワードを探しましょう。その定性的情報(数値化できないイメージや言葉など)から仮説を立てます。そして2種類の広告を出稿し、その結果を比べて仮説を評価します。これは「A/Bテスト」と呼ばれ、安価で簡単に広告出稿ができるデジタル時代になって一般化した方法です。SNSの投稿やコメントは本音の宝庫です。この分析から、潜在的なニーズや不満、トレンドが発見できるでしょう。SNS分析には無料から有料まで多数のツールがあるので、予算や目的に合わせて選びましょう。インサイトは顧客の心を掴み、競争優位確立を図るための重要な鍵です。しかし、それを見いだすのは簡単ではありません。心理の奥にある本音や感情を発見しなければいけないからです。そのためには可能な限り複数の方法を使い、顧客の生の声や行動観察を組み合わせて分析しましょう。重要なのは顧客の視点で仮説を立て、検証をし続けることです。

プロフィル

宮田 庄悟 (みやた しょうご)1956年1月3日生まれ、和歌山県出身。早稲田大学を卒業し、79年4月に電通入社。東京、ニューヨーク、北京、ロンドンでマーケティング、イベント、スポーツ業務に従事。「ラグビーワールドカップ2019組織委員会」の広報・マーケティングなどを担当。20年4月から現職。

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