水産業のファームスズキ(大崎上島町東野垂水、鈴木隆社長)はカキ養殖量を3倍に増やし、海外への売り込みを強める。県内特産のカキはフライや鍋用のむき身が多いが、本場のフランスなどで主流の殻付き生カキを空輸するほか、急速冷凍した生食用を販売。東・東南アジア各国に対して、欧州から輸入するよりも納期や価格面で優位な代替品として提案する。
大崎上島町の塩田跡10万平方㍍に海水を引き込み、2012年に養殖をスタート。広くて底の浅いカゴの中で密集させず、エサを行き渡らせながら育てることで、大きさや質を均一に高めている。国内で初めてフランス製の生育装置「シーデューサー」1セットを取り入れ、1年の試行期間に面積当たりの生産量が3倍に増えた。これを受けて3セットを追加導入する計画で、来年3月から本格的に増産体制を敷く。24年6月期の生産高6700万円から、今期は1億3000〜5000万円への伸びを予想する。同装置は自動的にカゴを海面から上げて養殖中のカキを一時的な飢餓状態とし、水に沈めた時に通常よりも多くのエサを食べさせることで成長を促す仕組み。周囲の山からの湧き水による植物性プランクトンが豊富な塩田跡池だから可能という。池からプランクトンを送り込んで1〜1・5㍉の稚貝を円滑に育てる水槽も新設した。車エビ養殖も順調で、現在の6〜7㌧から来年は倍増を目指す。数年内に合計生産能力は3億円分に引き上がる見込み。フランスで盛んな塩田跡池の養殖は国内唯一。植物性プランクトンを栄養源として特に1〜3月は身が緑色になり、甘さやまろやかさが際立つ。広島県庁などの協力を受けながらPR活動を展開し、既に台湾、香港、シンガポール、タイに販路を持つ。トップセールスで東・東南アジアの各国に輸出先を広げるとともに、タイで定着してきたデリバリーに参入するなど、市場の特性に応じた売り方を検討する。23年2月に同業者と設立した「ヒロシマオイスターズ」や国内トップのカキ加工会社クニヒロ(尾道市)などでつくる協議会は、23年度の農林水産省「GFP大規模輸出産地生産基盤強化プロジェクト」に採択された。実績のあるEUに加えて中東などの開拓を目指す。ファームスズキはカキの種(幼生)年間900万個のうち、半数を2〜3㌢に育てて同業者に卸している。鈴木社長は「水産業を志す若者が減っている。生産方式から抜本的に見直して〝もうかる仕組み〟をつくり、賃金などの待遇改善を通じて業界に呼び込む必要がある。広島モデルとして普及させたい」と話す。
担当記者:吉田