広島大学発ベンチャーのマテリアルゲート(中野佑紀社長)は6月、コンピューターメモリの消費電力を約90%削減できる新素材「単分子誘電体」のラボラトリーを同大学インキュベーションオフィス(東広島市鏡山3-10-31)に開いた。7月10日までにファンドから1億4000万円を調達し、資本性ローン2000万円を受けるなど体制を整備。既に複数の大手メーカーと協業が決まり、まずは2025年までの薄膜コンデンサ(蓄電器)市場参入を計画する。

隣り合う2室計100平方㍍を借り、「材料ラボ」と「デバイスラボ」にした。精製装置や合成炉、顕微鏡などを置く。同社は分子設計や特性のカスタマイズ、成膜や微細加工、デバイス設計などのコア技術を持つ。ラボと協力先を合わせて現在の年間生産力は数万個。研究員とエンジニア各1人が新たに入社し、大学院の協力者含めスタッフ約10人。単分子誘電体を開発した同大学大学院の西原禎文教授が最高科学責任者を務めている。会社設立は23年6月19日で、資金調達によって300万円から7300万円に増資。資本準備金含め1億4300万円となった。単分子誘電体は単分子でありながら強誘電体のような特性を持ち、分極の方向をデジタルの0と1に対応させることで情報記録材料に用いる。室温以上で特性が観測されることから実用化に適す。従来のメモリは、高速処理だが消費電力の大きな「揮発性メモリ」と、消費電力は小さいが処理速度の遅い「不揮発性メモリ」がある。メモリそのものだけでなく、コンピューターのCPU(中央演算処理装置)とメモリとの間のデータ伝送には多くの電力が使われている。単分子誘電体は微細化に極めて優れ、これを用いたメモリは従来の1000倍近い高密度化を実現。約90%の消費電力削減が期待でき、環境負荷低減の面でも訴求力がある。25年までに展開を始める薄膜コンデンサを足掛かりに、28年までにFeRAM(強誘電体メモリ)、32年までにDRAM(揮発性の半導体メモリ)、40年までにNAND(SDカードやフラッシュメモリなど)市場への参入を図る。全てのメモリ素材に代替可能で、ライセンス供与などを通じて1兆円規模の世界市場を狙う。広島県が時価総額10億㌦以上へと急成長するような企業の創出を目指す「ひろしまユニコーン10」プロジェクトで、23年度の最優秀賞に選ばれた。
担当記者:吉田