―昨年10月に総理交代があり、1月20日には米国のトランプ大統領が就任します。経済政策の変化など広島経済への影響をどうみていますか。石破総理が就任されましたが、岸田政権時と経済政策面では大きな変更はないと思います。岸田前総理時代に長期デフレによる停滞から転換を果たし、これから本格的に経済の好循環に移行できるかの重要な局面です。経済の現状は緩やかな回復基調ですが、世界情勢の地政学リスクも含め予断を許さない状況です。少数与党の状況ですが、石破総理には、リーダーシップを発揮し、好循環の流れを続けてほしいですね。地方の中小企業では、原材料価格が上がっており、賃上げの原資確保や人手不足も課題になっています。政府は地方創生2・0を掲げており、ニーズが高い事業承継支援を含め、地方の中小企業への一層の政策を期待したい。「103万円の壁」の見直しについては、就業人口減少の中、人手不足対策としては学生のアルバイトや主婦の社会復帰などでニーズがあるのではないでしょうか。財政への懸念がある一方で、世帯収入の増加による消費拡大が期待されるプラスの側面もあります。日米関係については、世界各地で不安定な情勢の中で、経済や防衛の面で重要な役割を果たしており、日米の連携強化を図っていただきたい。トランプ大統領の経済政策では、広島は自動車を中心に輸出産業が多く、関税の行方を注視しています。前回のトランプ政権では議会下院は野党・民主党が多数派でしたが、今回は上・下院ともに与党・共和党が多数派の「トリプルレッド」になることから、政策変更がスピード感を持って行われる可能性もあります。―広島県経済の現状と新年の見通しは。日本銀行や中国財務局の統計では、足元の生産活動などは停滞しているものの、設備投資が堅調で、企業業績は底堅いとみています。ひろぎんホールディングスのボーナス調査でも1人当たりの支給額が3年連続で伸びており、新年も所得環境の改善が期待できます。またインバウンドの増加などで個人消費の持ち直しの兆しもあります。2025年の物価上昇は、為替の影響を含め鈍化するのではないかという見通しもあります。一時の1ドル160円台が12月20日現在157円となっています。米国金利が下がり、日本の追加利上げがあれば日米の金利差が縮まり、円安ドル高は落ち着いていくのではないでしょうか。春闘の賃上げもポイントです。雇用の7割は中小企業が占めており、既に賃上げを表明している企業の動向が中小企業へも波及すればと考えています。企業の内部留保が賃金や設備投資に回り循環すれば経済は活性化します。広島商工会議所としても生産性向上、商品・サービスの付加価値拡大などを通じ、中小企業の業績向上に貢献したい。―広島商工会議所の25年の注力事業は。①経営力向上支援、②パートナーシップ構築宣言の普及拡大、③生産性向上、デジタル化・DX支援、④広域ビジネスマッチング―を柱にしています。経営力向上支援は1丁目1番地の事業で、事業計画策定、資金調達、補助金の申請手続きなどを経営指導員が伴走型で支援しています。パートナーシップ構築宣言は12月19日現在、全国で5万7788社。広島県で1477社が行っています。DX支援は、私がDX推進リーダーを務めている広島県DX推進コミュニティで、企業などを対象にした勉強会やDXの事例紹介などを行っています。広島商工会議所では「チェンバーズパック」というシステムを導入し、会員事業者のセミナーや勉強会、支援事業などの参加状況を各部署間で共有しており、会員支援に生かしています。また、オンラインでの経営相談も試行しています。昨年10〜11月には名古屋、神戸商工会議所とオンラインでの広域ビジネスマッチングを初開催しました。3エリアで計461社、広島からは会員113社が参加。全体で289社、広島では54社がマッチングしました。広域ビジネスマッチングは今年も継続してやっていきたいですね。今年4月には県と共催でインド経済視察訪問団派遣を予定しています。私も参加し、①生産拠点や新たな投資先、②優良なマーケット、③IT人材―の三つをテーマに、南部のチェンナイ工業団地、アンナ大学、西部・グジャラート州のマルチ・スズキ、ヒロテック、ワイテックなどを訪問します。広島でも一昨年に元安川川岸緑地にガンジー像が設置され、県とタミル・ナドゥ州の経済交流協定再締結、広島日印協会発足など、交流機運も盛り上がりつつあります。私も16年の広島銀行頭取時代に、ワイテックのインド工場開設時に訪印しました。当時から経済は活発でしたが、人口が世界一になり経済成長を続けているインドの現状に注目しています。―サッカースタジアム開業の効果や3月の広島新駅ビル「ミナモア」開業の期待はどうですか。サッカースタジアムは、サンフレッチェ広島が優勝争いで2位になったこともあって、観客数が48万人超と過去最高になり、カープの試合と同じく、観戦後にサンフレッチェ広島のユニホームを街中で見かけることが増えました。飲食店などで経済効果が出ています。広島城三の丸エリアも25年に飲食・土産物店、26年に歴史館が完成予定で、旧広島市民球場跡地の「ひろしまゲートパーク」、スタジアム東側の芝生広場「ヒロパ」、水辺の森と合わせた回遊性が期待できます。広島新駅ビル「ミナモア」開業、広島電鉄の駅前ルート新設・2階部分への乗り入れなどで、広島市のビジョンの「楕円形の都心づくり」の2極が整備されます。紙屋町・八丁堀と広島駅周辺の回遊性も期待でき、福岡市の天神と博多駅周辺のように都市発展に貢献すると思います。―広島商工会議所再開発ビルが着工しました。昨年9月に起工式が執り行われ、これまでのところ、工事はスケジュール通りに進んでいます。広島商工会議所が移転する高層棟(地下1階地上31階建て延べ7万7900平方㍍)は、27年度に完成する予定です。今春から躯体工事が始まるので、鉄骨の外観がお目見えする日も近いのではないでしょうか。相生通りに面した南側には、1〜3階が吹き抜けの、さまざまなイベントができる広場が設置されます。建物が道路の上をまたいで建設されるというのも特徴的です。広島商工会議所は低層部のうち3〜6階に入り、3階にエントランス、6階に大会議室を設け、隣接してオフィスワーカーの語らいの場となるオープンテラス(430平方㍍)が造られます。7〜19階の中層部はオフィスが入居し、コワーキングスペースも入る予定で、20〜31階の高層部にはラグジュアリーホテルが入ります。―他の広島商工会議所のトピックス、新年の経済スケジュールは。現在の七つの部会(工業、商業、理財、建設業、観光・サービス業、小売商業、運輸業)は1984(昭和59)年に設置されています。産業構造の変化もあり、実情に合わせた再編成を行うことを検討しています。特に、観光・サービス業部会はホテル、飲食、情報サービス、士業など、広範囲に及んでいるため、再編成においては、情報や士業に対する事業を充実させることを考えています。2025年は被爆80年を迎えます。被団協のノーベル賞受賞で改めて広島の核廃絶の役割が認識されたと思います。G7サミット時の「Pride of Hiroshima展」の常設展が昨年4月から「ひろしまゲートパーク内シミントひろしま」2階で始まっており、広島商工会議所としても情報発信していきたい。私が広島経済同友会の代表幹事だった7年前に広島へ誘致した「全国経済同友会セミナー」が4月に開催されます。エディオンピースウイング広島や広島新駅ビル「ミナモア」など、全国の経済人に広島の発展する姿を見てもらいたいですね。
担当記者:大谷