学生が地元経営者をインタビューすることで、地域で輝く企業に目を向け、思考を深め、広島での就職意識を高めてもらうプロジェクト。県内の大学生が2024年の夏、東広島市の企業を訪問し、インタビューしました。
創業100年の安全靴メーカー 現場の声に応え、素材と機能にこだわる
野口ゴム工業株式会社 / 寺竹 陽一 常務取締役
ー会社の歴史・特徴について教えてください。当社は大正13年(1924年)に、ゴム長靴メーカーとして創業しました。現在は働く人の足を守る安全靴を開発・製造しており、アスファルト舗装専用の安全靴など、用途に特化した商品をつくっています。素材にもこだわりを持ち、世界基準を満たす高い性能が特長です。また、飲食店やサービス業などの多様なワークシューズもラインアップし、近年は若い人向けにデザイン性の高い靴や、地元球団とのコラボスニーカーなど、時代に合わせた取り組みを推進。創業の原点を大切にしながら、これからも挑戦していこうと、2024年11月に旧社名「野口ゴム工業」を復活させました。ー入社のきっかけは。私が育った地域に当社があり、なじみを感じていました。入社当初は製品開発に携わり、その後、営業を担当。異なる二つの業務を経験したことで、靴の企画から販売という過程を深く知ることができ、商品提案に生きています。さまざまな靴の開発を手掛けさせてもらい、自分のやりたいことを理解してくれる会社だと実感しています。ー印象に残っている仕事は。フットサル専用シューズの開発プロジェクトです。全国各地を巡りながら、プレーヤーやコーチたちのリアルな声や多彩な要望を直接ヒアリングし、それを靴づくりに反映させています。最適なデザインや機能性を求めて試行錯誤を繰り返し、開発には約2年もの時間をかけました。ようやく完成したシューズはトップリーグのフットサルクラブとの契約に至り、本当に感慨深かったです。

ー仕事で心掛けていることは。直接現場に出向き、丁寧なヒアリング調査が重要です。先ほどのフットサルシューズも同様ですが、関わっているさまざまな人から聞き取りをします。このほかにも、例えば自動車産業向けシューズでは大手自動車メーカーで働く方から「立ち仕事で足が疲れる」との意見をもらい改良。中のインソールを入れ替えてクッション性を改善すると、好評を得て継続受注につながりました。小さな声であってもできる限り拾い、お客さまの足に合う靴にしていきたい。最近は建設業や工場でも作業環境の快適な場所が増えているため、安全靴に求められる条件も変わってきました。例えば女性や若者のニーズに応えるために軽くて普段使いでき、オシャレで電車にもそのまま乗れるような靴を開発しています。ーお客さまとコミュニケーションを図る際に大切にしていることは。スピードと気配りですね。問い合わせをくださったお客さまの熱が冷めないように、すぐに回答や行動を起こすよう努めています。気配りについては、相手が見てどう思うのか考えることや、相手に分かりやすい説明を付け加え、お客さまの目線に合わせるよう配慮。それは社内でも同じで、指示を出す際も大まかにではなく、相手の立場になって理解を促すようにしています。ー生産現場でもコミュニケーションは重要ですか。当社は国内工場はもちろん中国の工場で生産しているので言葉の壁などがありますが、身ぶり手ぶりを交えながら、丁寧なコミュニケーションを心掛けています。商品によっては開発・製造に1年程度かかることもあり、何度も現地を行ったり来たり。出来上がったものが想定と異なる時は直接会って説明し、作り直してもらいます。現地のスタッフと密な交流を図り、より良い製品づくりに努めています。

ー大手自動車メーカーで採用されている靴など、世界基準を満た商品を作る上で大変なことは。小柄な日本人に合わせるために軽量化する一方で、強度を高めることが一番大変でした。世界の強度基準は日本の3倍。それに沿った商品の開発には3年程度かかりました。こだわりは素材と厚さです。今後は現場の作業者が快適に仕事できるクッション性を重視した、軽くて薄い商品を増やしたいと考えています。ー一般の方に知ってもらう工夫は。安全靴は、一般の方があまり接する機会がありません。ファッション性の高い靴をつくり、東京の大手ドラッグストアや大手通販サイトなどでも販売し、目を引くようなPR展開を意識しています。今後も企画・製造技術の向上に力を入れ、安全靴の普及に力を入れていきたい。
《私たちがインタビューしました》
◆広島大学4年 下井田 萌コミュニケーションを図ることの大切さについてのお話が印象に残りました。心に留めて今後にも生かしていきたいです。◆広島文教大学2年 大井 青空倉庫に案内していただくなど、貴重な経験に。「安全靴」という普段関わることの少ない業界について学べたことで、視野を広げられたように感じました。これからは足元に注目してみます。◆安田女子大学1年 迫永 那歩直接話を聞き、コミュニケーションを通じて、お客さまのニーズに一層合った商品を開発することができると学びました。私もスピードと気配りをこれから意識していこうと思います。
プロフィル

野口ゴム工業株式会社 / 寺竹 陽一 常務取締役
1973年生まれ、広島県出身。大阪工業大学を卒業し、97年に入社。開発や営業を経て、2024年に常務取締役に就任。
【会社概要】
1924年創業。安全靴の製造企画・販売、安全衛生保護具の販売。2024年4月に100周年を迎えた。24年11月に社名をノサックスから「野口ゴム工業」に変更。旧社名を復活させた。