確かにチョコレートのような風味があるのに、カカオは一切使っていない。食品製造のあじかん(西区商工センター)はチョコレートに含まれる10種類の香り成分のうち、焙煎ゴボウに8種類もの共通成分があることを発見。その研究を生かし、昨年夏にゴボウを原料とするチョコレート風のスイーツ「ゴボーチェ」を発売した。カフェインを含まず食物繊維が豊富で、ジャパン・フード・セレクション(2024年7月)グランプリを獲得。昨年12月には全国放送のニュース番組でも取り上げられた。いま品薄状態という。足利直純社長(56)は、「この商品は業務上の失敗作から生まれた。ここ数年、みんなに〝前向きな失敗〟を促し、失敗を恐れて挑戦をためらう雰囲気を払拭することから始めた」植物由来の原材料だけを使うバター代用脂を開発中に思いがけずゴボウとチョコレートの香りの共通点を発見。まさかの新商品につながった。「3年前の社員アンケートで(当社には)失敗できない雰囲気があると指摘された。これはいけないと思った。準備不足や怠慢による失敗は許されないが、何か新しいものを生み出そうと意欲的に挑戦した結果、それが失敗しようと容認されなければならない。すぐに社長朝礼で、前向きな失敗を歓迎すると全社員にメッセージを送った」米ハーバード大学の研究者ショーン・エイカー氏の著書「幸福優位7つの法則」(徳間書店)から示唆を受けた。成功したら幸福になるのではなく、幸福であることが成功につながることを多くの研究から解き明かす。職場の幸福感や楽観主義が業績を高め、失敗へのプレッシャーを抱えた組織と比べて、成果に差が出るという。わが社はどうだろうか。さまざまな試行錯誤を重ねてきた。「もともと部門間のセクショナリズムが強く、4〜5年前から配置転換によって部門の垣根を超えた組織再編を進めてきた。少しずつ開発や営業などが互いの気持ちを分かるようになり、風通しが良くなった。社風こそ、企業の活力を促す大きな原動力ではなかろうか。優れた商品はさらに優れた競合品の出現で消え去る。しかし社風はいつまでも独自性を発揮し続ける。一人一人が自ら考え、行動する組織を目指している」楽観主義だから小さなチャンスも見逃さない、ワクワク感があるのだろう。約400種類ある卵製品の一つ「まどか」は、スクランブルエッグを作る過程で、たまたまクルクルと回って筒状になったものを商品化。拡販商品に育った。昨年11月発売のペットボトルタイプの焙煎ゴボウ茶は開発に14年の歳月をかけた。一般的にペットボトルのお茶には酸化防止のビタミンCを微量加えるが、どうしても風味に影響が出る。粘り強く開発を続け、ようやく満足できる商品に仕上がった。滑り出しは好調という。「主体性があれば職場から指示が無くなる。指示された仕事には気持ちがこもらない。しっかりと背景や狙いを伝え、後は任せる。たとえ、うまくいかなくても、みんなで解決策を考えることが発展につながり共感を生む。楽しい仕事こそ一番の目的です」前3月期連結売上高は初めて大台の500億円を突破。今期は520億円を見込む。巻きずしの魅力を発信する「巻MAKI課」の設置など新たな挑戦も始めている。
担当記者:梶原