広島県知事 / 横田 美香 氏

昨年11月29日、広島県政史上初の女性知事に就任。人口減少や地方の転出超過、国際情勢の緊迫など難しい舵取りを託されるが、「素晴らしい地域の財産、資源を守りながらも新しい時代の要請に応え、県民が暮らしやすく誇りや愛着を持ち続けられる広島県を築く」と熱意を込める。
知事就任を迎えた率直な心境は。
知事として初めて知事室に入り、これまでの県政の積み重ねを強く感じた。歴代知事が背負ってきた責任の重さを思うと、身が引き締まる。同時に広島県が直面する課題の多さも改めて実感したが、どれも先送りできない。県民の皆さまの暮らしに直結する課題に、真正面から向き合う覚悟だ。変化する社会の中で新しい制度や発想を取り入れる一方で、広島が大切にしてきた価値や強みはしっかりと引き継ぐ。女性として聞いてきた声や経験を県政に生かしたいが、業務には自然体で臨みたい。
人口減少や転出超過対策はどうか。
人口減少そのものは全国共通の課題であり、簡単に止められるものではないが、社会減と自然減の抑制に力を入れたい。特に若者の転出超過はさらに対策を講じる必要がある。広島で働き、暮らすことに魅力を感じてもらえる環境をつくりたい。そのためには、やはり経済対策に力を入れるほか、若者が働く上で魅力的な場所がたくさんあると知ってもらうことが大事。企業誘致はもちろん、既存企業もアップデートしていけるよう促したい。スタートアップや新産業の観点を含めて、「広島はチャレンジできる環境だ」と思ってもらえるよう機運を高めていく方針だ。
男女の給与格差の解消、柔軟な働き方の推進など、若者や女性が安心して働ける職場づくりもポイントになると考えている。制度を整えるだけでなく、実際に活躍する姿を発信することも大切。広島でキャリアを築くロールモデルを可視化したい。暮らしの魅力の観点では、日々の暮らしや子育てが楽しいと感じられる地域づくり、つながりづくりが欠かせない。文化芸術や祭り、エンターテインメント、スポーツなど、人々をひきつける力を磨き、若者や女性が活躍する姿を発信する。さらに、県外へ出た方とも関係を途切れさせない仕組みも考える。
まちづくりで新たな構想はあるか。
広島の強みは都市機能と自然・農村地域が近いことだ。都市に住みながら、中山間地域や島しょ部に足を運んで海や山といった自然に触れられる。この近接性を生かし、都市と農村が補い合う形で県全体の魅力を高めていく。レジャーはもちろん観光、副業、体験農業など、日常的に交流人口や関係人口を創出したいと考えている。デジタル技術を活用すれば、場所に縛られない働き方も広がる。広島ならではの暮らしやすさを、県内の多様な地域で実現したい。
道路などのインフラ整備もこの数十年で着実に進み、各地を行き来しやすくなった。空港アクセス問題については既存のリムジンバスに加え、26年1月末まで福山や尾道方面の「エアポートライナー」を実証運行している。
国の総合経済対策を踏まえ、県内の産業振興の方針は。
国の総合経済対策で挙げられた17分野は、県内のいろいろな産業に関わりがある。これを追い風に、それぞれの産業がいっそう発展するよう波に乗せたい。例えば半導体分野では、メモリー半導体製造大手のマイクロンメモリジャパン(東広島市)が同市の工場において次世代メモリー半導体の生産基盤の強化を計画している。工業用の水をはじめインフラ環境などで、県としてもサポートしたい。また、半導体関連産業の拠点化を見据えて、東広島市が同工場の近くに新たな産業団地の整備を計画。県内で未分譲の工業用地は少なくなってきており、これに限らず、中山間地を含めて企業誘致につながる工業用地の造成には非常に期待している。やはり、多様な産業があってこそ全体の産業が強くなるからだ。幅広い分野に目配りしたい。
米国関税や物価高への対応は。
これまでも県として販路開拓や融資支援などを実施してきた。状況は日々変わり得るため、市場の動向を把握し、県内企業の声を聞きながら、スピード感を持って必要な対策を打つ。物価高についても現場の声を聞き、家計の不安と事業者の負担の双方を把握する。支援の網を細かく張るために市町との連携も必要になってくるだろう。
農林水産省に勤めた強みが期待されるが、方針は。
農林水産業は食生活を支えるだけでなく、地域の維持をはじめ、観光面でも食や農業ツーリズムなどで結び付く。県内は中山間地域の狭い農地が課題で、集約や基盤整備、品種改良などで生産性を高め、新規就農者を育てる体制を強化したい。例えば集落全体で協力しながら多彩な作物の栽培を組み合わせ、同時に新規就農者を育てていくといった工夫が考えられる。副業・兼業的な農業も含め、多様な担い手を確保したい。
気候変動への対応も避けて通れない課題だ。喫緊の課題としては、カキへい死の対策に向けた庁内連絡会議を設置。養殖の現場の視察やヒアリングを行い、支援策を決めた。
観光振興の肝は。
広島には海、山、島、川、そして産業の歴史といった多彩な資源がある。それぞれの地域が持つ物語や食を官民共創やデジタル技術で磨き上げ、つなげていく。モデルコースのブラッシュアップを図り、周遊と滞在を促したい。
第一印象は静穏な印象で、取材が始まると柔らかな雰囲気や、明るく周囲を引き込む話ぶりが特徴的だった。就任後、カキ大量死に苦しむ生産者のもとを迅速に訪れるなど県民の声を傾聴。誠実な姿勢がうかがえる。富山県の副知事時代は女性活躍の促進などを目的にアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)解消にも取り組んだ。柔軟な思考は、父親の仕事の関係で子ども頃にブラジルで生活し多様性を自然なものとして受け止める感覚を育んだからか。学生の頃は毎朝のニュースを題材に父と政治の話をしており、社会を良くしたい一心でこの道を歩んだという。
広島に新しい風を吹かせてくれそうだ。