尾道と故郷
昨年末、東京のAIベンチャーと提携した船舶修繕国内トップ級の向島ドック(尾道市)。船の生涯データを業界で共有して国全体の修繕力を底上げするプラットフォーム構築に舵(かじ)を切った。40歳で自動車業界から転身した久野智寛社長には、愛知県の港町で育った原体験がある。
実家の居間に、両家の祖父母がそろう唯一の旅を収めた写真が飾られていた。千光寺公園の風景と知ったのは、ずっと後だという。工作好きの父に連れられ、近所の造船所が遊び場だった。さびと潮の匂い、起重機のうなり、鉄を打つ音。高校卒業後、車より先に船の免許を取った。
30代、トヨタ系メーカーでメキシコに駐在。工場は生産設備より、その修繕が重要だと身をもって学んだ。久野社長は、
「外の世界でこの経験を生かしたい。偶然に県の人材マッチングサイトを開いたとき、クレーンが立ち並ぶ尾道水道の写真が目に飛び込んだ。向島へ行き、当時の社長と膝をつき合わせ、安定航行供給の夢に共感した」
船の世界へ転じる決断を、幼少期の原風景が静かに後押しした。
今、全国数千隻に対し、修繕ドックが足りない。データが港をつなぎ、不足を補う時代が来る。ものづくり日本の産業の母、造船業の再興に挑む。