インタビュー 2026.02.16

船の生涯データをAI管理へ

向島ドック / 久野 智寛 社長

どんな準備をしてきたか。

 2017年からデジタル化に取り組んできた。約6年分の施工データ、10年超の検査数値、トラブルやクレーム、災害の報告書を用いてBOM(部品構成情報)、製造工程を示すBOPといった視点で標準化を進めてきた。統計学で分析を試みたが、顧客の要求を仕様書、工程、工数に変換する作業は属人的で標準化が難しく、壁にぶつかった。25年秋に生成AIを用いたところ、資料を統合し、無意識に行っていた作業を可視化してくれてブレークスルーできた。

なぜ修繕データが重要なのか。

 修繕データは、新造船の設計にもフィードバックできる。新造船所や機器メーカーの情報は引き渡し前や自社製品に限られるが、修繕ドックには建造から廃船まで数十年分の情報があり、どこが壊れやすいか、どうすれば長持ちするかが分かる。造船所や船主に提供することで維持整備コスト、機器トラブル、船員の負荷が減る設計を提案できる。壊れにくく手の掛からない、高品質な新造船にも貢献可能だ。

業界全体に開放する意図は。

 この業界は経済安全保障の重要な一分野であり、協調が必要だ。内航物流を支える民間船、自衛隊や海上保安庁の官船、漁船など国内数千隻に対し、対応できるドックが足りない。全国のドックが参加してデータを共有することで、業界全体の修繕能力を高められる。当社単独では限りがあるが、他のドックにも参加してもらえば、情報量増大によるAI分析の高精度化も期待できる。将来的には、これまで極秘とされていた各社の受注計画も共有し、どこに持ち込めば早く修繕できるかが分かる状態を目指す。サービス、人材育成は競争領域として各社がしのぎを削れば良い。

今後の展開について。

 今年4月末に東京の展示会SEAJapanで基盤の思想とサンプルを示す。年内にスモールスケールで実装し、27年にかけて機能を発展させる。28年頃までに実用化を目指す。中小型造船工業会の修繕委員長として、業界標準化も推進したい。

船舶管理事業との連携は。

 先代の時代に5隻まで自社船を増やしたが、船を持つことが目的になっていた。目的を再定義し、船員を自社で雇用して現場の知見を修繕に還流する場へ転換した。機関部の船員と整備人材を出向で交流させ、双方の知見を共有する。運航の現場を知る人間が修繕を担当すれば、より実態に即した提案ができる。リチウムイオン電池搭載船など新技術も自社船で検証している。

トヨタ系企業から転職した経緯は。

 トランスミッションなどを造るアイシン精機(愛知、現アイシン)に約17年在籍し、メキシコ拠点の副社長兼工場長を務めた。安定した製造には生産設備そのものの維持整備が最も重要だと肌で理解し、その経験を別の世界で生かしたいと考えていた。県のプロフェッショナル人材戦略拠点のサイトで当社を知り、日本のものづくりの祖業とも言える造船の修繕事業に興味を持った。先代社長と尾道で直接話し、入社を決めた。

組織改革と目指す姿は。

 22年7月の就任後、リブランディングに着手。23年7月の創業70周年に合わせ「安定航行供給業」という経営理念を打ち出した。2年目は人事・給与制度を見直し、3年目は社員の家族の幸福まで重視する福利厚生を導入した。修繕は地味だが、海運を支える重要な仕事。この価値を社会に認めてもらいたい。

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PROFILE
久野 智寛(くの ともひろ)

久野 智寛(くの ともひろ) 1976年7月23日生まれ、愛知県出身。中央大学経済学部卒業後の99年にアイシン精機入社。30代でメキシコ拠点の副社長兼工場長を歴任。2016年11月に向島ドック入社。17年取締役、21年専務、22年7月から現職。

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