スズキ / 齊藤 欽司 グローバル営業統括 参与

インド進出成功の代表例といえるのが自動車メーカーのスズキだ。同社と現地の国営企業の合弁で1983年に生産を開始したマルチ・ウドヨグ(2007年マルチ・スズキに社名変更)は5年足らずで同国の乗用車シェアの過半数を獲得し、地場メーカーが隆盛した現在も約4割を占める。インド市場の「今」や進出のポイントなどについて、広島大学経済学部を卒業後にスズキのインド事務所長やマルチ・スズキ取締役などを歴任した齊藤欽司氏に聞いた。
現在、インド全土の乗用車販売の市場は400万台を超えているものの、当社が進出した頃はわずか3万台程度だった。小型で手頃な価格ながら高品質というスズキの強みが刺さった面もあると思うが、要因はそれだけではない。自動車ビジネスでいえば、販売店は直営ではなく、現地の人々が独立資本で運営している。「スズキとの取引はもうかる」と信用してもらうことが、販売網拡大においては重要だった。
直近のトピックとしては、小型車への税金が昨年9月に引き下げられた。これは強い追い風になる。

同年2月にインド4拠点目となるカルコダ工場(年間生産能力25万台、最大100万台)を稼働させインドでの生産能力を260万台規模に高めたばかりだが、まだ需要に追い付いていない。単独で100万台を造る、次なる新工場をグジャラート州サナンドで建設するため、用地購入を今年1月に発表した。2030年代には全社で400万台に乗せる計画だ。このうち300万台はインド国内で、残りは今後の成長が見込まれるアフリカなどに輸出する。
そのためには当然、サプライヤーの方々に協力していただく形になる。自動車の構成部品は約3万点と、非常に裾野が広い。あらゆる産業がインドに進出してほしいと思っている。広島は大学時代を過ごした愛着のある土地だ。地場企業の皆さんと、今以上にタッグを組めたらうれしい。
経済成長はまだまだ続く
私がインド担当となった1995年に比べ、大きく変わった点の一つが中間所得層の増加だ。例えばバイクが日常の足だった人々が乗用車に乗り換えるなど、世界でも類を見ないほどに自動車市場は伸びている。日本の高度成長期のような「今日より明日はもっと良くなる。来年の自分はきっと今より豊かになっている」というマインドが広がっており、経済全体の成長もまだまだ続くだろう。
国民の9割以上が登録している、日本のマイナンバーのような身分証明制度「アーダール」がある。これはスマホや銀行口座とひも付いた先進的なシステムで、本人の許可を得て取引履歴などから信用スコアをすぐ出せる。個人が小規模事業を起こそうと思ったら貸し付けを依頼し、即座に運転資金を受け取ることもできる。こうした仕組みも大いに経済活動に寄与している。なので「まだこれからの国だろう」と思っていてはいけない。この記事を読み次第、インドに行って商売を始めた方がいい(笑)。
社長自ら足を運ぶべき
これまで述べた通り、インドの勢いはすさまじい。部長や役員ではなく、社長がそれを肌で感じなければダメだ。自社が生き残っていくためには、無視できない国だと思うはず。辛くて脂っこいインド料理はおいしいが、食べ過ぎはお腹を壊すのでご注意(笑)。怖いところではないので、ぜひ現地に足を運んでほしい。
インドの強みは、やはりITだ。そこに日本の特長である真面目さや、ものづくりの技術を掛け合わせれば非常に大きな力となる。ただし、文化や考え方は全く異なる。大切なのは、進出後は腹をくくって現地のスタッフに任せることだと思う。日本の本社から細かな報告を求めたり、過度なコントロールをしたりすると、現場の人は何もできなくなってしまう。なのでインド人だけでなく日本人も含め、現地の事業を託せる人材をどうつくるかが鍵になるだろう。
お勧めは、まずインド人を日本の本社で採用すること。企業文化をきちんと理解してもらった上で、例えば現地法人の社長を任せる。最近、インド進出でうまくいっている企業は、中小も含めこのパターンが多い。
他によく相談を受けるのは「単独での進出と現地企業との合弁、どちらが良いか」だ。私は、相手が信頼できるなら合弁でも良いと考えている。相手が現地のことを知っているのは大きな利点だろう。ただし、意志決定のためには綿密なコミュニケーションが必要になる。それができる相手かどうか、見極めてほしい。
では単独は困難かと聞かれると、そうとも言えない。その場合、まず課題になるのは人だ。人事や労務面を管理できる存在、そして営業を担う人材が自前で雇えるのであれば、成功の可能性は十分にあると思う。