どんな人が広告をよく読むか、ご存知ですか。まず商品の購買を検討している人はもちろん、意外なことにその商品を購入した人も、その商品の広告をよく読みます。この現象は「認知不協和」という心理バイアスで説明できます。消費者は購買後に自分の選択の正しさに不安を抱き、認識と購買行動に矛盾が起きることがあります。この内心の認知不協和を解決しようとして、購買商品の情報を集めるために広告を読むのです。広告には、その商品の良い点や他社製品との優位性が書かれています。それを読むことで選択を正当化する情報を得て、認知不協和を緩和しています。
認知不協和理論
個人の心の中の二つ以上の認知が矛盾している状態を指すことを「認知不協和理論」といいます。先述のように商品を買ったが、その選択に自信を持てないことは度々起こります。この心理的状態は不快であり、人々はこの不快感を解消するために情報を集めるだけでなく、自分の信念や行動を変えることがあります。この理論を説明するためにイソップ童話「酸っぱいぶどう」がよく使われます。高いところにぶら下がっているぶどうを手に入れようとするキツネが、何度もジャンプを試みますが、どうしても届きません。最終的にキツネは諦め、「あのぶどうは酸っぱいに違いない」と自分に言い聞かせます。この話は認知不協和の一例を示しています。キツネは自分を納得させ、欲求と現実の間の心理的な矛盾を解消しました。マーケティングでは、このような心理的な矛盾の解消を応用します。例えば高級車を「高価だがコストパフォーマンスに優れている」と宣伝することで、消費者の価格に対する否定的な見解を変え、購入へと導くことができるのです。認知不協和理論を活用することで、顧客の購買行動を効果的に促せます。以下は具体的な施策の例です。
-購入後のフォローアップ購入後に顧客がその決断に満足しているかを確認します。例えば商品の利用方法や、満足できる点を強調するフォローアップメールを送ることで顧客の不安を軽減し、リピート購入につなげることができます。-顧客レビューの促進顧客に購入体験を共有させることで、他の顧客の潜在的な購入意欲を刺激するとともに、購入した商品への満足度を高められます。購入後にレビュー記入の奨励メールを送ることが一つの方法です。-交換・返品ポリシーの明確化交換や返品が容易であることを明確に伝えることで、購入前の不安を和らげて購入決定を促進することができます。これによって顧客はリスクが少ないと感じ、より自信を持って購入に踏み切ることができます。-価値の再確認商品、サービスの価値や利点を広告、ウエブで繰り返し強調することで、顧客が自分の選択に自信を持つように促します。例えば商品の特長や成功事例、顧客の証言をマーケティングメッセージに組み込むことが効果的です。これらの施策は顧客が自らの選択に疑問を持たないようにし、認知不協和を緩和させることに役立ちます。さらには顧客ロイヤルティを育むことにもつながります。
プロフィル
宮田 庄悟 (みやた しょうご)1956年1月3日生まれ、和歌山県出身。早稲田大学を卒業し、79年4月に電通入社。東京、ニューヨーク、北京、ロンドンでマーケティング、イベント、スポーツ業務に従事。「ラグビーワールドカップ2019組織委員会」の広報・マーケティングなどを担当。20年4月から現職。