源をたどる
納得のいくまで筆で書いた文字の一枚から造形が決まると、今度はノミに持ち替えて木板にうがつ。書家で刻字作家の安達春汀(しゅんてい)さんは企業から記念となる文字を託され、刻字にすることが多い。水力発電用の水車を製作する東広島市のイームル工業(山口克昌社長)から創立記念になる文字「源」を刻字に残したいと依頼を受け、3月末に作品を納めた。春汀さんは、「なぜか、源の文字は厳島や源平などの戦いのイメージが強く、いくら書いても納得がいかない。その思いを伝えると、発電の基となる水の源の現地に赴くと何か感じられるのではと案内された。水の源から流れる小川、ダムから放たれる飛沫の音、泉の広々とした静けさ、水車の回る音のある風景に浸った。思いが強すぎると気付いた。葛藤と書き込みを繰り返し、ようやく一枚が生まれた。それを差し出したときの山口社長の笑顔が印象的でした。文字が決まると刻ほることが今までになくうれしかった。締切日はとっくに過ぎていたが辛抱していただいたと感謝している」通じるものがあったのだろう。1947年創業の同社は織田史郎さん(弟は五輪金メダリストの幹雄さん)が電力不足の向上と食糧増産のため農山村復興に役立つ小水力発電を建設すると決心したことに始まる。山口社長は、「創業者は自らの脚で水力地点調査から建設まで行った。中国地方を中心とした多くの農山村部の経済復興に貢献してきた。経済復興を果たし、今は再生可能エネルギーを生かして地球環境を守る方向へ移りつつある。水を愛し、水車と共に歩んできた創業者の想いが綿々と流れている。社会貢献を目的に集まり今後もイームル魂を引き継いでいきます」3年後に創立80周年を迎える。源からはるか先へ歩を進める。
知れば面白い
広島経営同友会(三村邦雄会長)の第744回例会が4月22日に市内ホテルであった。「ひろしま美術館の現況と今後の企画展」と題し、(公財)ひろしま美術館専務理事兼副館長の角倉博志さんが講演。同館の生い立ちから企画展の裏話に触れながら美術にまつわる興味深いエピソードも話した。広島銀行創立100周年を記念して美術館構想が持ち上がり、設計者に歌人の与謝野鉄幹、晶子の孫にあたる若手建築家の与謝野久氏を起用。その辺りについて、「館に込める想いを形にするため、著名建築家ではなく、あえて若手を選んだようです。美術品に湿気は禁物ですが、被爆地への鎮魂の思いを込めて、館の周りに水路を巡らせています。コレクションは“美しい、分かりやすい”を基準とし、ルノワールの『麦わら帽子の女』を皮切りに1077点を収集。昨年2〜5月、ポーラ美術館との2館特別企画で開いたピカソ展は、過去20年の西洋絵画展で最多の入場者9万人を動員した。ピカソは7人の女性との遍歴とともに作風も大きく影響を受けたと言われている。画家の横顔を知ることで、鑑賞の楽しさも増してきます」角倉さんは1978年、広島銀行に入行。金融商品営業部長や専務などを歴任し、2019年6月から現職。誰しも著名なコレクション作品の価格に興味がそそられるが、世界三大オークションのサザビーズでの同じ画家の作品落札価格を参考とするにとどめた。さすがに手堅い。
知財功労で大臣賞

精米機メーカーのサタケ(東広島市)は、「令和6年度 知財功労賞」の経済産業大臣賞を受け、4月18日に都内ホテルで表彰式があった。中国地方からの大臣表彰の受賞は8年ぶり。商標を活用したブランド戦略をコーポレート・事業・商品の三つの体系で積極的に推進している点、新たな日本酒精米方式「真吟(しんぎん)」を酒蔵に無償使用許諾するユニークな商標戦略を展開している点、新商品の開発段階から知財部門がチームに入る模範的な組織体制・管理手法などが評価された。松本和久社長は、「当社は1896年の創業以来、『常に一歩先の技術を求めて』を胸に穀物加工の研究開発に尽力しています。今回の名誉ある受賞を励みに、今後一層の技術イノベーション創出と知的財産のグローバル展開に取り組み、世界の『食』の発展に貢献してまいります」
鞆の町を応援

江戸時代は町の住人らを「町方衆」と呼んだという。当時の趣を残す福山市鞆町の町並みや文化を守るため、県が善意を募る「鞆・一口町方衆応援プロジェクト」を創設。これに椿不動産(中区八丁堀)と、産廃や古紙などリサイクルの安田金属(廿日市市)が協賛し、それぞれ100万円を寄付した。椿不動産の藤本律夫社長は4月23日にあった贈呈式で、「相続不動産が専門の当社は福山支店も構えており、地域貢献になればという思い。鞆では家屋の保存や空き家対策が行われているがまだ道半ば。建物は使う人がいてこそ価値が出る。より多くの人に訪れてもらえるよう活用してほしい」安田金属の戸田和雄常務は、「当業種は地域事業者や住民の協力なしに成り立たない。本社から距離はあるが、県プロジェクトの趣旨に賛同し協力を決めた」2019年に始まった同プロジェクト。応援パートナー企業は県内外88社に増え、個人なども合わせた支援金額は9200万円を超えた。
広島陸送90周年
陸送や一般貨物配送・倉庫保管・引越などを手掛ける広島陸送(西区草津港)が4月20日で創業90周年を迎えた。昨年9月に3代目を継いだ吉清貴一社長(52)の祖父、恵さんが三篠町(西区)で機械販売修理業を立ち上げ、1964年に一般貨物運送の免許を取得して運輸業に乗り出した。だが、その9年後に逝去。急きょ子息の皓一さんが25歳の若さで二代目社長を引き継ぐ。98年に長男の貴一さんが入社。現場で10年、役員を15年務めた後、昨年9月で社長交代。皓一さん(81)は会長に就いた。吉清社長は、「車を陸送するニッチなサービスに特化し、おかげさまで無事に卒寿を迎えることができた。今、最大の課題は人材育成と世代交代。ドライバーの平均年齢が52歳を超え、若い人の確保が急務。物流業界は4月から時間外労働の上限規制がスタートした。これが雇用にどう影響するのか、対策を講じる必要があります。数年前から段階的にベースアップを実施しており、若い人に当社の魅力を知ってもらおうとSNSで会社情報を発信。100周年を迎えるまでの10年間が、存続を左右する重要な時期。全力でぶつかります」