調整はマイペースだが、やはり評判通りの投手である。球速150㌔前後の直球が糸を引くように捕手のミットに収まる。ドラフト1位の常広羽也斗は入団会見で「自分の特徴はアウトコースの直球」と語った。直球で空振り三振を奪う“かっこ良さ”を信条とし今、たんたんと1軍入りを目指している。カープの歴史をひもとく。20世紀の津田恒美(1982年)、川端順(85)、長冨浩志(86)、山内泰幸(95)、沢崎俊和(97)、21世紀に入ってからの野村祐輔(2012)、大瀬良大地(14)、森下暢仁(20)、栗林良吏(21)。彼ら9人は、いずれもドラフト1位でカープに入団し新人王に輝いた右腕である。今季もし常広が新人王を獲得したら節目の10人目ということになる。もちろんその可能性は十分にある。それを実感させるのは本人も自負する、指先に力を集中させて投じる“直球の質”の良さだ。映像で見る限り、私が初めて森下の直球を見たときの印象とあまり変わらない。いや、むしろそれを上回るかもしれない。日南の2軍キャンプで初めて常広の投球を見た球団アドバイザーの黒田博樹は「モノが違う」と賛辞を惜しまなかった。もちろん課題はある。入団時73㌔だった体重は地力を付けるために、もっと増やさなければならないだろう。またシーズンを通して投げ抜くスタミナも未知である。ただ彼が新人王を争うレベルでローテーションの一角に加われば、再びカープが投手王国を築く可能性もある。スロー調整でも構わない。私はひたすら常広に注目している。

プロフィル

迫 勝則(さこ かつのり) 1946年生まれ。マツダ退社後に広島国際学院大学部長などを務め、執筆・講演活動を続ける。近著は「森下に惚れる」「逆境の美学」

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