選ばれる企業へ
海を越え、言葉も十分に使いこなせない。異国の日本で就労する心細さを乗り越え、キャリアを積もうとする心構えと意欲が周囲を動かし、次第に絆を深めているようだ。2月26日に広島県主催「外国人材受入企業等向けフォーラム」があった。2023年度の特定技能外国人受入モデル企業補助事業に採択された県内の5社が特定技能2号資格者の輩出に向けた取り組みを発表。制度改革を踏まえ、外国人材から選ばれるために何が必要なのか、などの課題に向き合った。因島鉄工(尾道市)は、造船・舶用工業分野では全国初でベトナム人3人が特定技能2号に同時合格。大田鋳造所(西区)は、2号取得の必要要件で日本人でも難しい鋳鉄鋳物鋳造作業1級を目指し、希望者6人が1月から勉強会を始めた。中原ファーム(北広島町)は昨年12月、2号農業技能に2人が合格。カキ養殖の森脇水産(廿日市市)は従業員24人のうち18人が外国人材で、3月から特定1号が5人になる予定。自動車部品搬送用パレットなどの広島ピーエス(東広島市)は外国人材の学ぶ姿に触発されて全従業員の意識や行動に変化が起こり、生産性向上をもたらしたという。いずれの企業も分け隔てなく立場をよく理解し、日本語教育や受け入れ環境に配慮した取り組みを重ねる。2号に合格した因島鉄工のタイさんは、「生活や仕事を支えてくれ、家族のようにみんな優しく大好き。東京や大阪の給料が高いことを知っている。でも私たちにとって大切にしてくれることが大事。後輩を指導し、この会社で成長したい」12産業分野で一定の技能を持つ外国人を受け入れる特定技能制度1号資格者は昨年6月で17万人以上。高度な知識や経験が求められる2号資格者は全国的にもまだ少ない。
地域と共に成長
エクステリア商材や住設機器販売のクラタクリエイト(安芸郡坂町)は、3月で節目の創業100周年を迎えた。創業者の蔵田兵次郎さんが研屋町(中区紙屋町)で建築金物の製造を始めた。1945年に原爆で亡くなり、二代目に就いた明さんが戦後復興で需要が急伸したオート三輪など自動車部品の製造をスタート。ビル建設ラッシュに沸く60年代には自動ドア販売を先駆け、時代が求める事業に取り組んできた。1974年に前身のクラタ建材を設立。事業拡大を見据え、75年に蔵田金属工業(現キーレックス)の建築関連部門を継承。山口や岡山にも販路を広げる。兵次郎さんのひ孫で、2月に就任した瀨濤(せとう) 康充社長(38)は、「業態が変わっても、質の高い暮らしを実現するという創業時の信条に変わりはない。社内外の声に耳を傾け、魅力ある企業風土づくりを進める。さまざまな方に理解や協力をいただきながら、建築業界の発展、地位向上に貢献したい」
価値生む視点
同じビルで働いていてもフロアが違うと気軽に会話を交わすのは何となく気が引ける。 テラスホールディングス(西区)が広島JPビルディング2階で運営するフードホールのグランゲート広島で2月19日、ビル内異業種交流会があった。同ビルディングマネジメントオフィスが主催。20社以上から60人が参加した。「日ごろ企業間の接点は少なく、なるべく総当りするよう10人6グループに分けた。ホールのビアバー、レストラン、肉割烹を順巡りして皆が知り合えるよう工夫。当日は月2ペースで2月から始めたDJイベントを重ね、今後も交流を促していきたい」(テラスHD)桑原明夫社長は、「主力の解体工事で実績を重ねながら周辺事業領域をループ。不動産価値を高める分野に視点を定め、ウイングを広げていく」今年から叡啓大の学生にフードホールのカフェタイムの販促企画を募っており、何が飛び出してくるか。
企業は人なり
研究開発に使われる試験機や測定機などを扱う小川精機(中区西白島)の古太刀利文社長は、「新入社員は最初の数カ月間が大事で、その人のやる気やポテンシャルを引き出す絶好のチャンス。売り手市場の今、大事にしようとするあまり甘やかすのではなく、できるだけ早い段階から仕事に対する興味を持たせ、意欲を引き出していくことが肝心。受け入れる側が創意工夫を凝らしながら彼らに成長していく喜びを体験してもらえるよう、われわれも真剣勝負です」人材の確保と育成を経営の最優先に掲げており、3代目就任から昨年12月で丸30年を迎えたが、今も新人研修につきっきり。その指導は厳しく、優しいという。「当社は膨大な数の専門的な商品を扱っており、先代の父からは常々、信用第一と聞かされてきました。ライバル会社も懸命にレベルアップを目指しています。企業は人なり。常に教育に力を入れ、先手必勝。自ら考え、行動する力こそ成長の原動力だと思う」経営の根幹は、どんな時代にも変わることがないと話す。
百貫島物語
(公財)日本財団などは福山市鞆の浦を舞台にした民話「百貫島物語」をアニメ化。2月1日に沼田心之介監督が枝廣直幹市長を訪問し、DVDを贈った。鞆の浦沖に浮かぶ弁天島は百貫島とも呼ばれており、その別名の由来とされる物語を5分半の動画にした。武士の頼みで海に沈んだ刀を探しに行った漁師がサメに襲われて命を落とし、武士が銭百貫で近くの島を買い取って供養するというあらすじ。危険と分かっていながら海に潜った漁師の誇りを表現した。海にまつわる全国の民話を映像化する「海ノ民話のまちプロジェクト」の一環で、県内で初めて。枝廣市長は、「次世代を担う子どもたちが地元の民話を理解しやすくなる。観光客の目にも触れる形で活用していきたい」
中道元子さん百日祭
広島駅前の老舗たばこ店「なかみち」の名物店主として知られた中道元子さんが昨年11月17日に67歳で亡くなり、神道の帰幽百日祭が2月27日に営まれた。生前に親交のあった会社役員や大学教授ら150人以上が機知に富んだ人柄をしのび、別れを惜しんだ。同社は1905年に中道乙丸さんが食堂を開業。旅館などの経営を手掛けたが原爆投下で建物が焼失し、小売店として再開した。元子さんは75年に嫁入り。果物とたばこ店を営みながらブライダル業界でフルーツコーディネーターをこなし、2014年に社長就任。駅前Cブロック地区の再開発に伴う新ビル「エキシティヒロシマ」内で18年に新店舗をオープンし、たばこに特化。800〜1000種類に及ぶ品をそろえ、多くのイベントを企画し、たばこ文化を発信した。長女で5代目の詠子さんは、「母は社業への情熱とエネルギーあふれる人でした。これからも人と人のおもてなしができるよう歩みたい」