地場大手のマツダ車ディーラーで、2027年9月期までの新たな3カ年中期経営計画をスタート。電動化や自動運転など100年に一度の変革期といわれる中、社長としての初年度決算を終えた田中聡氏に、企業永続に向けた一手を聞いた。

―前9月期の状況と今期見通しは。メーカーの不正認証問題の発生に伴う一部機種の生産停滞、生産が終了した「CX―8」の後継機に当たる新型車「CX―80」の発売遅れなどが影響し、新車販売は苦戦。売上高は前年比6%減の厳しい期となった。一方、収益面では中古車や整備、保険などの全部門、全社員が力を合わせて増益を確保。期初計画を超える実績となった。社員や、何よりマツダを支えてくださっているお客さまに感謝申し上げたい。自身がマツダ系列の中古車会社にいた経験から、中古車部門の構造改革に力を入れた。近年のマツダ車の残存価格上昇に合わせて下取り価格を上げ、新車販売につなげながら中古車の在庫を確保。新中両面での収益増につなげられた。部門最適から全社最適へ、考え方の変革が成果に表れたと思う。今期は待望の新型車CX―80の発売やCX―60の商品改良など好材料が多い。これらラージ商品群は他車を圧倒するパワーと燃費を発揮する直列6気筒のディーゼルエンジンのマイルドハイブリッドが好評。PHEVもそろえており、将来の代替母体となる重要なお客さまを増やす戦略商品だ。高い残価を生かした残価設定クレジットなど新たな買い方の提案を積極化し、将来に向けた安定的な事業継続のためにもしっかりと販売していきたい。―新中計のポイントは。「人が集まり、人が育つ会社へ」がテーマ。デジタル化が加速する中で、われわれの強みや価値を「お客さまと対面で応対する人の力」と位置付けた。日本は将来にわたる人口減少で市場縮小が懸念されるが、まずはその前に起こる、働く世代の大幅減少に対策しなければならない。安定した経営基盤構築のため、人材を確保し育てる環境づくりを一番ピンに置いた。人材の成長プロセスと処遇、育成制度を明確にした新人事制度を導入する。人事制度には各個人が目指すべき方向性を選べる複数のキャリアプランを用意し、産休や育休後などライフプランに応じた働き方の多様化を実現していきたい。―将来を見据えた経営方針は。人材確保につながる処遇改善と、お客さま満足向上のための設備投資を並行して続けていく方針だ。年頭には呉店と広店の統合で新たな「呉広店」として内装を新世代化し、オープンした。同様に3カ年計画の中で大州や東広島、廿日市といった母店をリニューアルし新世代化を進める。お客さまにゆっくりと過ごしていただきながらマツダ車最大の特徴であるデザインやボディーカラーを体験していただける、そんな空間を提供していきたい。また働く環境改善の投資として、全整備工場への空調導入も同期間内に計画している。こうした投資と処遇改善の両立には、営業生産性の飛躍的な向上が必須。自動車販売業界の営業員は日々高度化していく車両や保険、関連諸税の知識が必要で、その業務は整備の入庫案内や保険の案内、車両の代替提案など複雑多岐にわたる。生産性向上へ新設したIT戦略部を中心にDXを進め、真に人が必要な業務に時間を使える環境を整備する。保険のように詳しい知識が必要な業務については店頭に専門員を配置するなど、分業化も進めたい。―これまでの印象深い仕事は。11年3月11日、東日本大震災当時、私は福島県のマツダ販社の代表だった。余震が続き原発事故が発生する中、お客さまから車検や保険などのお問い合わせを多数頂き、われわれの仕事には自動車という社会インフラを支える重要な使命があることを痛感した。当時、震災や原発被害による厳しい経営環境も想定されたが、何があっても絶対に誰も解雇しない、復興まで全社員で乗り切ると宣言。社員全員の心が一つになり震災直後の同年4月から14年3月まで、3期連続で過去最高益を更新し続けることができた。人の心の大切さを身にしみて感じた経験だ。

プロフィル

たなか さとし1967年2月13日生まれ、東京都出身。中央大学法学部を卒業しマツダに入社。本社やグループ販社で営業畑を歩み、マネージャーや店長、ロードマン(販社担当員)、販社社長などを経験。2019年4月に本社TCM(トレードサイクルマネジメント)推進部長、同年7月から国内営業本部副本部長などを兼務し、23年10月にアンフィニ広島へ出向。顧問兼営業本部長から同年12月に社長就任した。

担当記者:吉田

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