カープ史75年の中で〝カープのエース〟と呼ばれた投手は優に30人を超える。しかし、厳選された日本球史の中で石碑のように刻まれる名投手ということになると、私の史観で書けば、長谷川良平、外木場義郎、北別府学、大野豊、佐々岡真司、黒田博樹、前田健太の7人ということになる。〝真のエース〟というのは、勝ち負けに関係なくチームを背負って、圧倒的な存在感でチームを救う投手のことを指す。そこには自然に文句の言えないような実績が伴ってくる。あまり思い出したくない昨季の9月。新井貴浩監督が「一番重要な時期」としたラストスパートの1カ月間のことである。大瀬良大地、九里亜蓮(現オリックス)、床田寛樹、森下暢仁の当時の先発4本柱がまるで連鎖ゲームのように崩れていった。この間の4人の成績は、合わせて1勝14敗だった。このとき海の向こうで、この状況に注目していた投手がいた。それは私が〝真のエース〟の一人として挙げた前田(米タイガース)だった。彼はそのときのことをこう語る。「あれはエースの責任。チームがそういう状況になるのはよくあること。4人のうち誰かが流れを止めなければいけなかった」。今のカープにはエース級の投手が3人いる。しかし、〝真のエース〟ということになると…。その意味で、私は大瀬良、床田、森下の開幕投手争いに注目している。今季こそ真のエースを見たい。リーグ優勝とか、日本一とか…。そういう話は真のエースが出てきてからの話になる。
プロフィル
迫 勝則(さこ かつのり) 1946年生まれ。マツダ退社後に広島国際学院大学部長などを務め、執筆・講演活動を続ける。近著は「森下に惚れる」「逆境の美学」