できる経営者は語りが上手い
ライター時代の20年間で中四国の経営者約1000人を取材しました。取材対象者は当時、各分野で注目を浴びつつある方がメインでしたが、10年以上を経て今なお元気に事業を拡大し続けている企業の経営者には一つの共通点があることに気づきました。それは「語りの上手さ」です。
実は経営者の話し方セミナーなどで教わるような声がよく通る、滑舌がいい、リズム感があるといった、ありがちなテクはどうでもいい。とにかく「話に引き込まれる」のです。今や世界に名を知られるブランドに成長した「獺祭」の桜井博志会長や、「ないものはない」のスローガンでおなじみの島根県海士町の前町長、山内道雄さん(故)もそうでした。
事業を始めるに至った経緯、さまざまなトライと失敗、起死回生の取り組みや出会い、ターゲットとポジショニング、そこへ向けた、よそにはない高い付加価値の仕組みと言語化、未来へのビジョンなど、こちらがインタビュー仕事をしているのを忘れるほどワクワクさせられるものでした。面白いことに、この流れはそのまま成功者たちのマーケティング実践の軌跡でもあるのです。
あなたも試しに前述のコンテンツに沿って考えてみてください。たとえば「差異化を図るためのトライと失敗」はなんでしょうか。語れないとすれば、その事業は完全にルーチン化しており、今後も価格競争という負のループから脱することは難しい。「ターゲット」も重要です。商品やサービスをオファーする相手が明確に思い浮かばないなら、「よし分かった、買おう」と思わせる刺さるメッセージを発することすらできません。
他のコンテンツはいかがでしょうか。ご自身がインタビューを受けているつもりで考えてみてください。この方法はライター時代の経験を基に考案した「逆算式なりきりストーリー」と呼んでいるワークで、クライアントやセミナー参加者にもやってもらい成果を上げています。現段階では語れるものがなくても、恥ずかしがらず「こうありたい」という最高に好ましい状況を思い描き、それを成し遂げている経営者になりきり「仮定の話」として語ってみるのです。
このワークは1回で終わらず、頻繁に実施することで潜在的な強みやアイデア、目指すべきゴールがいろいろと増えてきます。社員さん相手にやってみて、アドバイスを聞くのも楽しいものです。このプロセスなしに本物の「伝え方」は身につくものではありません。次回は、この気づきやヒラメキを逃さず実装する方法を紹介したいと思います。
読者からの質問
ビジネス交流会の3分スピーチなどを印象付けるコツは。
ポイントは三つ。①伝える内容は極力、一つに絞ること。時間が短いからとあれもこれもと早口で話すと、聞き手を混乱させるだけで逆効果。「そのやり方では多くの人から支持を得られない」と思うかもしれませんが、ビジネスは万人を相手にするものではありません。ターゲットに興味を持ってもらえれば十分です。②自社を主人公として語るのではなく、お客さまに何を提供し、どういうニーズに応え、お困りごとを解決できるのか、導入効果にフォーカスすること。もちろん自慢話はNGです。③スピーチの出だしで「皆さんに質問します」という問い掛けスタイルは避けること。注意を引くために有効だと一時はやりましたが、使われすぎて効果がありません。
PROFILE
小林 カズヒコ
コピーライターやアートディレクターを経て、中四国初の本格的なマーケティングコンサルに転身。中小企業経営者や個人事業者へのコンサルほか、金融機関からの依頼で経営が悪化した企業への助言も実施。診断や相談先メール(匿名不可)marketingdefense@harukomania.com