「タイパ」という言葉を初めて耳にしたのは、そう遠い昔のことではありません。その際に映画やドラマを2倍速で視聴するというスタイルを知り、少なからず驚きました。しかし、情報過多の時代において限られた時間で効率的に情報を収集するという行動でもあり、現代のスピード感に合致しているのでしょう。その象徴ともいえるのが、ティックトックやインスタグラムリール、ユーチューブショートなどの短尺動画SNSプラットフォームの急速な台頭です。スマホで短時間で楽しめるため、消費者の接触時間が増えています。同様の傾向として、音楽も短尺化の流れにあります。全米チャートのビルボード100にランキング入りする楽曲の平均時間は、1990年代の約4分から2020年代には3分程度にまで短縮されています。また、短尺動画に合わせるためにイントロ無しやサビから始まる曲も増えています。この変化は広告主にとっても大きな意味を持ちます。消費者の注意を引き付け、エンゲージメントを高めることが求められる今、短尺動画プラットフォームを活用した広告活動の重要性がますます高まっています。公式アカウントから短尺動画を発信するだけでなく、広告出稿によるアプローチも欠かせません。これらのSNSで効果的に動画広告を運用し、消費者の心をつかむためには、いくつかポイントがあります。
プラットフォームの特性を理解する
ティックトックは若年層中心で、トレンドや商品トライアル、音楽を重視したコンテンツが人気です。20代から40代が対象のインスタグラムリールはビジュアル重視で、美しい動画や日常のシーンが好まれます。ユーチューブショートは広い世代にリーチでき、幅広いジャンルのコンテンツを見られる点が支持されています。
目的とターゲット層を明確にする
商品特性と広告の目的(認知度向上、サイト誘導、商品購入、ターゲット層)に合わせてSNSを選びましょう。
視聴者の注意を引き付ける
15〜30秒の動画が最適ですが、最初の3秒で視聴者を引き付ける工夫が必要です。広告として重要なメッセージを冒頭に入れることはもちろん、視覚的に目を引くビジュアルや興味を喚起する音楽、力のある言葉を盛り込むことも重要です。
広告制作
スマホでの視聴を前提にしたアスペクト比「9:16」の縦型動画はマストです。重要なメッセージは視覚的にも伝わるように字幕を追加しましょう。また、視聴者から発見されやすくするためにハッシュタグを活用します。人気のあるハッシュタグと商品に関連するニッチなハッシュタグを組み合わせてリーチを拡大しましょう。
予算管理とデータドリブンな運用
効果的な広告運用には、戦略的な予算配分とデータ分析が欠かせません。クリック率、コンバージョン(行動転換による成果)率、ROI(投資収益率)などの指標を分析し、パフォーマンスに応じて柔軟に予算を調整します。そして施策の効果を比較する「A/Bテスト」を行って、異なる表現の広告をテストし、効率の良いものに予算を集中させましょう。
ターゲティングとパーソナライゼーション
ユーザーの属性や行動データに基づくターゲティングと、パーソナライズされた広告の配信が効果を高めます。また効果の高い時間帯や曜日に予算を集中させることも必要です。以上の点に留意して短尺動画プラットフォームを積極的に活用することが、現代のマーケティングにおいて不可欠です。ターゲット層や商品の特性に応じて最適な戦略を構築することで、限られた予算内で最大限の効果を発揮することができます。
プロフィル
宮田 庄悟 (みやた しょうご)1956年1月3日生まれ、和歌山県出身。早稲田大学を卒業し、79年4月に電通入社。東京、ニューヨーク、北京、ロンドンでマーケティング、イベント、スポーツ業務に従事。「ラグビーワールドカップ2019組織委員会」の広報・マーケティングなどを担当。20年4月から現職。