酒造り共体験
酒消費量が年々減る中、コト消費で日本酒ファンを広げようと賀茂鶴酒造(東広島市)は1月25、26日、酒造りを体験できるツアー「匠」を開催。市内在住の外国人や関東から計7人が参加した。2022年に始めた通年企画で春、秋、冬ツアーを3回実施。「水」をテーマに、昨年5月は酒の仕込み水の源流を巡り、酒造好適米山田錦の田植え体験。10月は「米」をテーマにサタケで精米技術を、酒類総合研究所で酒の香りを学んだのち、春に植えた米を刈り取った。「匠」は秋に収穫した米を使って同酒造の蔵で酒を仕込んだ。1日目の夜は市内の飲食店でペアリング体験。杜氏(とうじ)の椋田茂さん自ら解説した酒のこだわりや味わいに耳を傾けながら特産ジビエ、瀬戸内の食材などに舌鼓を打った。仕込んだ酒は特別ラベルにして参加者へ送る。石井裕一郎社長は、「酒の質を高める精進は当然のこと、酒造りの背景にある思いや哲学を共感してもらえる共体験を通じて日本酒ファン、リピーターづくりに努めている。インバウンドなど観光客が急速に増える今が正念場。トイレの整備など街の受け入れ体制に課題は多いが、当社は安芸国分寺の宿坊に泊まれる和体験ツアーといったイベントも訴求し、来訪者に少しでも満足してもらえる取り組みを続けたい」
一歩でも先へ
1943年に創業し、県内で初めて道路の中央線を施工した。何事も一歩先んじて挑戦し続け、生き残ってきたのだろう。土木工事などの宮川興業(安佐南区)はICT建機などを積極的に取り入れて若手の採用、育成にも成果を上げる。2月6日着工する天満川の川底の掘削工事では、中国地方初となる水陸両用ブルドーザーを使う工法に挑戦する。2年ほど前には社員の発案からアメリカ製の四足歩行ロボットを導入。測量の人件費を9割削減した。宮川晃一社長は、「ロボットのシステムの高度化へ何度も渡米するなど相当コストがかかったが、国や大手ゼネコンが見学に来るなど当社に注目してもらえるきっかけになった。当社の目新しさに引かれたのか、ここ数年は毎年2〜3人が入社。奨学金の返済支援や週休2日の徹底も相まって離職率はゼロだ」いち早く一人前に育てようと、昨夏から天満川を含む3現場で20代の若手を責任者に任命。工事を止めてはいけないと責任感が芽生え、機械の設定、外注先折衝、役所に出す書類作成などを主体的に行い、スキルを高めている。ロボットを持参した小学校での出前授業も行う。将来の担い手確保に意欲満々。
創業支援に懸ける
データベース会社セールスナウ(東京)の2024年都市別起業数調査(東京は区ごと)で、広島市が上位19位、福山市が70位にランクインした。起業が盛んな地域ほど産業が活性化し、雇用も生まれる。一方で創業希望者は事業が成功するのか、資金調達はどうしようかと不安が募り、第三者のサポートが求められる。「創業チャレンジ・ベンチャー支援事業」で実績を上げる広島市産業振興センターの小林孝至課長は、「とにかくヒアリングを重ね、その人の強みや本音を見抜く。それに基づく付加価値は何か。専門家、職員、コーディネーターを交え協議。やりたいこと、できること、社会に求められることのバランスを重視しながら、事業計画に落とし込む。漠然とした思いを言語化することで客観視や再認識ができる」同支援事業は12年度の開始から累計156件を認定。このほかセミナーやアドバイザー派遣なども行う。ランキングでは札仙広福のうち仙台を上回った。ひと踏ん張り。
ソムリエが決め手
飲食店の人手不足対策は待ったなし。特にワインといった専門的な知識や接客技術の有無が、店の評価や業績を左右するという。業務用食品卸のアクト中食(西区)は飲食従事者向けに今年もソムリエ・エキスパート資格取得対策講座を開く。担当の山肩康宏さんは、「過去に問題が予想された数年前と異なり、出題範囲が広く深く、様変わり。ワインのことだけを知識として身に付けるだけでは接客として不十分。ワインの本質を見抜き、料理に合う理由など確信を持って勧められる接客サービスが求められている。メーカーとの商談も確信を持って対応できることが信頼され、長続きする取引につながると思う。こうしたソムリエの活躍する店は実際に売り上げが上がり、経営安定に貢献している」受講者は過去15回で120人を超え、一発で資格取得した人も数多い。取得後から本当の勝負という。
根拠なき慢心
企業を標的にしたランサムウエア(身代金要求型ウイルス)などの被害が相次ぐ。大企業向けクラウドサービスのドリーム・アーツ(中区大手町)が昨年11月に行った調査で、経営層の約7割が自社セキュリティー対策に自信を持っているという結果になった。従業員1000人以上の企業経営層や情報システム部の計500人にインターネットで聞き取った。9割超が「対策は十分」、「おおむね十分」と回答。しかし直近1年でメールの誤送信をはじめランサムウエア攻撃、マルウエア(悪意があるプログラム)感染、不正アクセスといった脅威を経験した人は63%に上った。石田健亮最高技術責任者は、「半数が実際にはほとんど普及していない、計算中のデータの暗号化ができていると答えるなど、知識不足や根拠のない慢心が明らかになった。手口は年々高度化しており、できることは全てやる姿勢でないと会社を守れない。事故を包み隠さず共有し、学びを得られる組織文化の醸成も欠かせない」同社は昨夏、社長直轄の「セキュリティ委員会」を発足。自社サービスの安全性や信頼性を高める。
地域にほれる
土地にほれ、仕事にほれ、女房にほれる。祖父の言葉をそのまま社名にした軽自動車販売のサンボレ(佐伯区千同)は1月19日に設立記念日を迎え、事業20年目に突入。地域と共に開くイベントも定着してきた。昨年1月から毎月1回、地域でスポーツを頑張る子どもたちを招く「アスリート食堂」は本社近くの指定工場2階にあるテニスコートを会場にプロトレーナーがストレッチ、体幹を鍛えるトレーニングを指導。毎回、テニスコートに社員10人総出でコートの人工芝を敷く。その後本社に移り社員が丹精込めた料理を振る舞う。むろん費用は全て同社で負担。小田修久社長は、「利益は必要以上残さず、地域に還元する。私が経営で重視する社会性、独自性、経済性は順番が大切で、まず社会・地域のためになることに取り組む。経済性はいずれ付いてくればいい。これらの活動は社員の団結にも確実につながっている」直近5年の売上高は年平均17%増の成長を続ける。毎年1500人以上が訪れる「サンボレ祭り」はコロナで中止していたが昨年、5年ぶりに再開した。本社は災害時の一時避難場所に指定されている。地域にほれる心意気が素晴らしい。
日曜休む
美容室どの企業も人が足りない。特に中小は休日や福利厚生の見直しなどの自助努力で労働力を確保しなければ事業継続すら危うくする。県内に美容室10店を擁するアイ・スタイル(佐伯区)は1月、常識を覆す大胆な取り組みを始めた。業界で一般的な月曜定休を改め、多くの来客が見込める日曜を休業。さらに2月からは子育て中の従業員のために保育園や学校への送迎サポート制度も導入する。堂脇裕生社長は、「当社のスタッフは9割が女性で、主な年齢層は30〜40代。仕事と家庭を両立しやすい環境づくりは必須だった。日曜定休で売り上げは多少下がったが、それよりも大切なことがあると思っている。顧客も女性が中心なので、当店の取り組みを理解してくださる方が多く、ありがたい」今後も社員向けに家事代行や食材宅配サービスの費用を会社で負担する制度を計画している。趣旨に共感し、タッグを組んでくれる事業者を探しているという。