2006年に創業し、15年からブランドバッグに特化したサブスクリプションサービス「ラクサス」を開始した。会員は累計90万人を超え、保有するバッグは60ブランド・4万点以上と日本最大級に成長。高級バッグは「保有する」から「シェアする」ものへと文化を浸透させてきた。そして、24年12月13日に東証グロース市場へ上場。創業者の児玉昇司氏と高橋啓介社長に上場までの苦労やこれからの展望を聞いた。

【対談者】ラクサス・テクノロジーズ / 児玉 昇司 取締役ラクサス・テクノロジーズ / 高橋 啓介 代表取締役社長

スマホアプリで手軽に交換できる

―創業から振り返って、印象深い出来事は。児玉 06年に英語教材などの通信販売で創業し、7年連続で売り上げ日本一になり、09年から上場に向けて準備を進めていました。その時から資金調達してシェアリングエコノミーの新事業に挑みたいという思いがあった。しかし11年の東日本大震災で不況になり、上場できなくなってしまった。そこで通信販売を縮小する代わりに、シェアサービスに乗り出そうと決心。洋服では黒字化が難しいと判断してブランドバッグのシェアリングを計画。スタートアップとして資金調達し、15年2月にサービスを開始。ビジネスそのものよりも資金調達が大変で、バッグのシェアはビジネスにならない、利益が出ないと言われ続けましたね。震災で上場できなくなり、いつでも頑張りが報われる環境が用意されているわけではないと改めて気づいた。でも常に頑張っていないとチャンスはつかめない。シェアリングエコノミーへの事業転換は当然、株主に怒られましたが、みんなでやりたいことをやろうと決心。「世界中に笑顔を」を理念に掲げ、一生懸命に走り抜けてきました。

ブランドバッグのサブスク(月額9800円)、現会員は2万人

高橋 上場に当たり、投資家にこのビジネスを理解してもらうのに苦労しました。投資家の多くは40~50代の男性で、一般的に男性は所有欲が強い。時計や車を買ったり、フィギュアなどのコレクションを楽しんだりしますよね。一方で、女性は承認されたい。心理学や行動経済学、男女の考え方の違いなどあらゆる面から説明しました。厳しい意見もありましたが、私たちはバッグを「所有する」から「シェアする」へと新しい市場をつくろうとし、10年間もビジネスを継続させ成長させてきていると理解していただきました。

児玉 昇司 氏

―上場で重視されることは。児玉 上場の基準として、特に今の日本はビジネスの成長性よりも企業のガバナンスが重視されています。当社が19年にアパレル大手のワールドと資本提携したのも、上場に向けて体制をつくるため。スタートアップと大企業では文化が全く違うので、当社だけでは上場できなかったと思います。高橋 そうですね。昔は成長性が重視されていたけれど、求められるものが変わってきました。長時間労働やハラスメントなど、ここ10年で社会は大きく変貌しましたよね。スタートアップとして社員40人でがむしゃらにやってきて、確かに5年前でも上場できたかもしれない。ですが、体制が整わずバラバラになったでしょうね。スタートアップが無理して上場すればリスクは大きい。成長性はもちろん、大前提として「ちゃんとした会社」に整えた価値は大きいと思う。―上場が決まった時の気持ちは。児玉 やり切った、走り抜いた、全員でゴールしたという気持ちですね。とは言っても、上場は通過点でしかなく資金調達の一つ。創業以来、ずっとスタートアップで上場を目指してきて、やはりお金がないと、世の中変わるものも変わらないと身を持って知ったんです。高橋 東京証券取引所での上場セレモニーは、社員全員で出席したかった。円形の電光掲示板(チッカー)に当社の名前が流れてきたときは、ぐっときましたね。感慨深かった。ですがまだ、会社としては、一人の社会人としてスタート地点に立った気持ちです。ただ、がむしゃらに走ってきた分、社員の「ゴールした、達成した」という思いからバランスを崩しつつあるところもあります。児玉 なるほど。高橋さんは現状を把握できている。これは、経営トップとして必要な考え方です。

高橋 啓介 氏

―バッグのシェアリングが根付いた一番のポイントは。高橋 フリマアプリ大手のメルカリが成長し、生活の中に浸透したのは、追い風でした。残価を計算して出品して、ものを回転させていく。当社のサービスの場合、そこを月額制で、バッグを交換させていく。こちらは出品作業も不要なので、いろいろなバッグを手軽に試せます。児玉 確かに。お金の使い方が多様化したことも大きな要因ですね。昔は、服が好きならお金は全部服に使うような一点豪華主義でしたが、今はスマホでいろいろなものに少しずつお金をかける。消費行動の変遷や多様化していく過程を見られたのも、ビジネスの参考になりました。―シェアサービスで大切なことは。児玉 創業時は通販だったので、お客さまは神様のような存在。企業が顧客を大切にすることはもちろん重要ですが、シェアし合うビジネスにおいては、良いコミュニティーをつくっていくことが優先だと考えます。会員数を増やすことよりも、ルールを守らない会員には退会してもらうなど、コミュニティーの質向上を重視。どんな人でもよいわけではなく、ラクサスのサービスがないと困る人を増やす。そのために会員同士のイベントやお披露目会、SNSを通じた交流などに取り組んでいます。

バッグをシェアしたり、気に入ったバッグは購入可能

―今後どのような事業展開を考えていますか。児玉 まず、ラクサスファイナンス。自分が所有しているものに、高い価値を感じる保有効果という心理現象があります。ラクサスでは会員が気に入ったバッグを購入できる「買えちゃうラクサス」というサービスを20年に開始。月額費とは別に自費で購入してもらうのですが、ラクサスがお金を貸して購入してもらい、その利息で固定的な収益化をしていきます。

二つ目は、ブランド品のシェアリング。当社の強みは、4万点のブランドバッグを累計90万人が使ってきたというデータです。これらに加え、バッグの手入れや管理などの技術・知見はこの10年間で培ってきた賜物です。バッグに限らず、海外のラグジュアリーブランドのあらゆるものをシェアするんです。そのノウハウを提供し、ブランド公式のシェアリングサービスの裏方を担いたい。実際に、コロナ前にはブランド担当者が来日し、話し合いや交渉が始まっていて、それを再開・加速させたいと思います。

三つ目に、国内のリユース市場へのノウハウ提供や管理受託など。取り扱っているブランド品をシェアしたり、買ってもらったりするビジネスです。高橋 既存ビジネスの延長線上を超えた飛躍的な成長のために、仕組みの提供やM&Aの選択肢はあります。もちろん、ラクサス会員は増やしたいけれど、それよりもバッグの生涯収益を上げたい。ブランドバッグは通常、デパートやブティックで買うものです。当社はこれと真逆のことをしていて、〝買わない、交換できる〟仕組みを構築しました。4万点のバッグを保有しているので見せ方、生かし方はたくさんあると思っています。新規ビジネス、他のシェアリングへの投資も大切ですが、第一優先として〝ブランドバッグのディズニーランド〟を目指したい。バッグの価値を最大限に高めていく。その上で、例えばシェアリングを始めたい企業に仕組みを提供するとか、企業を買収するといったことにもチャレンジしたい。

地元経営者からのお祝いの寄せ書き

―経営で大切にしていることは。児玉 話し合いですね。スタートアップ出身の私とトラディショナル・カンパニー出身の高橋さんとでは、環境や考え方、知識や知見が違う。さらに高橋さんは、コンサルファームも経験しており、財務やマーケティングの知識もある。その視点から、私が話したアイデアをいくつかつなげて、例えばラクサスファイナンスのように実現性の高いものにしてくれる。高橋 児玉さんだったら、どう考えるかなというのを常に思うようにしています。育ってきた環境が違って、話が合わないこともあるはずなのですが、対話によって補完し合える。意見が合わずに諦めてしまう人が多いですが、私たちは話し合いを重ねて乗り越えてきました。

プロフィル

児玉 昇司 氏(写真右)1976年9月27日生まれ。広島市出身。早稲田大学理工学部中退。2006年にネット通販で創業し、15年からシェアサービスを開始。 高橋 啓介 氏(写真左)1978年9月20日生まれ。東京都出身。慶応大学環境情報学部卒業後、外資系大手コンサルファームを経て、2020年にワールドに転職。22年6月から現職。

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