健康寿命の延伸と医療費適正化を目的とした「データヘルス計画」の導入支援に全国自治体を飛び回っている。昨年7月1日付で、創業者で上場を果たした内海良夫会長から社長を継いだ。レセプトデータや健診情報に基づき効率的、効果的に重症化予防や健康増進を促す保健事業のデータヘルス。IT大手ディー・エヌ・エー(DeNA、東京)でヘルスケア事業をけん引した経歴をどう生かし、データヘルス事業を拡大していくか、意気込みを聞いた。
―全国自治体を回る中で、気付かれたことがありますか。現場を知る大切さです。自治体(市町村国保や後期高齢者医療広域連合)の方と直接会って話すことを大事にしたい。地域によって気候や風土も違えば、健康づくりの向き合い方も違ってくる。例えば、1日の目標歩数を掲げても降雪量の多い地域では歩くことさえ困難。代わりに雪かきや雪下ろしが身体を動かす大きな指標になる。自治体は全国1700超の市町村を数えるが、自分の足で見て回り地域特性を確認しながらデータヘルスを進めることが必要と感じている。地域特性がある一方で〝データ〟を共通言語とし、保健事業の現状を〝見える化〟して被保険者の行動変容を導く意思決定につなげていく。会長の内海が着眼し、始めたレセプトデータの分析と活用の技術はわが社がパイオニア。高齢化に伴い医療費が増大する中、効果の出る保健事業は待ったなし。共通言語としてのデータ活用を促進していきたい。―2022年8月にDeNAの連結子会社に、同年3月にDeNAからグループのDeSCヘルスケアの株式を取得し連結子会社化。健康づくり事業のシナジーが期待されます。当社は自治体が主力の保険者を対象としているが、ゲームなどエンターテインメント領域を得意とするDeNAは生活者に向けて一人一人の被保険者に直接、関わっていけるのが強み。自治体のデータヘルス導入が進んでも最終的に生活者(被保険者)が行動変容しなければ、保健事業の効果はなかなか現れてこない。DeSCが展開するアプリ「kencom」は、スマホで健診結果を分かりやすく手軽に確認、将来の生活習慣病の発症リスクもチェックでき、楽しみながら日々の健康づくりが進められる。例えば、日々2000歩の人がいきなり8000歩目指すのは難しい。もう少し少ない歩数でも予防に効果があるかなどをデータ分析した上で、一人一人に無理のない目標設定やインセンティブ(ポイント加算など)も用意し、習慣化した行動を変えてもらう。冒頭の、歩数を雪かきに代えてポイント加算するなど、切り口を変える工夫ができる。無理と諦めないで、行動変容を促せるのがDeNAの得意な領域といえる。営業機能も融合しながらデータヘルスとの両輪で健康づくりを後押しする。―DeSCグループ化を機に20年以上蓄積する医療関連情報のビッグデータの利活用が進んでいます。健康寿命の延伸、医療費適正化という国の課題解決を事業の目的と定め取り組んでいく中、保険者だけでなく製薬、保険、ヘルスケア事業会社などステークホルダーを広く巻き込んでいけば課題解決も加速する。データヘルス関連は市町村国保向けを主力に累計500超の保険者に導入が進む。一方、データ利活用はグループ全体の売り上げ50億円超の20%強だが伸長傾向にある。DeSCは健康保険組合や国保、後期高齢者医療制度のデータを多数保有しており、高齢化でポリファーマシー(多剤服用)対策が急がれる中、大学の学術論文などでエビデンス創出に役立ててもらっている。共通言語である〝データ〟を公益活用して、ステークホルダーとともに進化していきたい。―発展的な事業にワクワクします。保健事業の支援をより拡大させる位置付けで、住民全体のウェルビーイング向上を目指すスマートシティ構想への展開もできれば。例えば自動運転などの実証実験が待たれるトヨタのウーブン・シティなど従来にない発想で、健康づくりでも自治体ごとの課題に照準したまちづくりが推進できる。スポーツ事業も展開するDeNAグループは、ボールパーク横浜スタジアムやスポーツ公園などまちづくりの一翼を担い、ノウハウを蓄積している。スポーツとヘルスケアはシナジーもある。都市全体を健康づくりの切り口を起点に盛り上げていくような発想も具体化していきたい。―AIの活用について既にいくつかのプロジェクトで活用や技術検証をしている。AIというとその技術自体やデータが注目されがちだが、「顧客視点」でどう役に立てるのかが大切だと思っている。積極的に最新技術の動向は研究しながら、お客さまが困っていることは何か、それにAIがどう活用できるのかを社内でも議論して製品化の意思決定を行うよう心掛けている。
プロフィル

せがわ しょう1984年7月22日生まれ、松山市出身。大阪大大学院工学研究科修了。2010年DeNA入社。21年データホライゾン取締役。日本テクトシステムズ経営戦略室長、データホライゾン代表取締役兼副社長執行役員などを経て、24年7月から現職。DeSCヘルスケア社長、DeNAグループエグゼクティブ兼ヘルスケア事業本部本部長などを兼務。
担当記者:藤井