デジタルマーケティングでは顧客とのエンゲージメントの重要性が急速に高まっています。一方的な情報発信から、双方向のコミュニケーションへとパラダイムシフトが起きる中で、コミュニティ・マーケティングが有効な手法として注目を集めています。コミュニティ・マーケティングは、企業や製品を中心に形成される顧客コミュニティを通じて持続的な関係を構築する手法です。これは直接的な販売促進ではなく、顧客間の帰属意識と相互交流の促進に重点を置きます。従来からあるコミュニティ活動に、デジタルテクノロジーを融合させることで、より広範で効果的なエンゲージメントの向上が可能になりました。SNSやウェブを活用することで、時間や場所の制約を超えた継続的な交流を実現できます。米バイクのハーレーダビッドソンの「ハーレーオーナーズグループ」やアップル社の「サポートコミュニティ」は、グローバルな成功例として知られています。日本では無印良品の「IDEA PARK」による商品開発への顧客参加、サイボウズ社の「kintone Cafe」でのユーザーコミュニティの形成、コメダ珈琲店の「さんかく屋根の下」のファンコミュニティサイトなどが有名です。コミュニティ・マーケティングの具体的施策として次のようなことが考えられます。
オンラインフォーラムの設立
専用のフォーラムやチャットルームを設置し、顧客同士が製品やサービスに関する意見交換をできるようにします。例えばサポートフォーラムを通じて顧客が互いに質問や回答を投稿できる場を提供し、企業も定期的に最新情報や役立つヒントを投稿します。
オフラインイベントの開催
顧客同士が実際に交流できるオフラインイベントを定期開催し、つながりを深めます。具体例としては、製品のデモやワークショップ、あるいはエンターテインメントイベントを企画し、リアルな場を提供します。
ユーザー生成コンテンツの活用
顧客に製品の使用感や体験をSNSでシェアしてもらうことで信頼性の高いコンテンツを拡散し、口コミを促進します。ユーザー生成コンテンツ(ユーザーが作成・投稿したコンテンツの総称)を通じてフォーラムやSNSでの投稿を増やし、エンゲージメントを高めます。
ユーザー主導の製品開発や改善
顧客の意見やアイデアを取り入れた製品開発プロジェクトを実施し、顧客が企業に対して意見や希望を伝える機会を提供します。これにより、企業へのエンゲージメントが深まります。コミュニティ・マーケティングの利点は多岐にわたります。顧客ロイヤルティと維持率の向上、口コミマーケティングの促進、顧客フィードバックの獲得、顧客獲得コストの削減、評判と信頼性の向上などが挙げられます。さらにコミュニティは企業が顧客と直接関わり、新製品やサービスを宣伝するための効果的なプラットフォームとなります。コミュニティ・マーケティングは顧客に寄り添い共に価値を創造していくという姿勢であり、顧客とのエンゲージメントを高めるために有効な手法です。顧客との関係構築と帰属意識の醸成に焦点を当てることで単に購入するだけでなく、ロイヤルな顧客基盤を創造することができます。企業が顧客同士の接点を作る活動は、つながりを育むことで企業にとって長期的に効果のある戦略です。
プロフィル
宮田 庄悟 (みやた しょうご)1956年1月3日生まれ、和歌山県出身。早稲田大学を卒業し、79年4月に電通入社。東京、ニューヨーク、北京、ロンドンでマーケティング、イベント、スポーツ業務に従事。「ラグビーワールドカップ2019組織委員会」の広報・マーケティングなどを担当。20年4月から現職。