マツダを中心に国内全乗用車メーカーに樹脂部品を納めるダイキョーニシカワは6月、9年ぶりに社長交代した。杉山新社長に、新中期経営計画のポイント、国内外の工場の動向、新製品開発、カーボンニュートラルの対応などについて聞いた。

―就任の抱負、経営方針は。東証一部(現プライム市場)上場10周年を迎えました。日本の基幹産業である自動車産業の一翼を担っている責任と、広島・山口をはじめとする地元経済への貢献を果たす重責を感じています。社員の安全と健康を守ることに加え、自己成長ができる環境を整え、社員全員が未来に向かって元気にチャレンジできる企業風土の醸成を目指します。新技術開発で地球環境問題の解決やサステナブルな社会の実現にも貢献したいですね。―中期経営計画のポイントは。社会や自動車を取り巻く環境変化を踏まえ、2040年を見据えた長期ビジョンを初めて策定。24〜27年の中期経営計画は①顧客戦略(樹脂で新市場を開拓するマーケティング)、②商品戦略(新しい価値の創造や環境に配慮した樹脂商品開発)、③ものづくり戦略(次世代製品の品質マネジメント体制整備や変化への対応力向上など)、④経営基盤戦略(三つの戦略を包含した人材育成、地域貢献、ガバナンス・財務機能強化など)に注力します。27年度のKPIは、連結売上高1800億円、営業利益率7%、ROE(自己資本当期純利益率)9%を目標に、既存取引先の維持拡大と共に、新規自動車メーカー、1次協力メーカー、新規事業領域の開拓も進めています。連結配当性向は30%を目安とし、DOE(株主資本配当率)は2・5%以上が目標です。女性管理職も23年度の6人から13人、女性監督職を28人から42人、男性育休取得率は46・5%から90%を目指しています。各自動車メーカーは30年以降の事業計画を示しており、その実現に向けた大きな変化が27年前後に始まります。各国の環境規制は一段と厳しくなり、NEV(新エネルギー車)が普及するまではHVやPHEVなどの電動化が進展すると予想されます。当社の主力商品は内燃機関車でも電動車でも一定のビジネス耐性はありますが、これまで以上に環境負荷を抑え高品質で安価な商品が必要になります。大量生産・消費・廃棄が前提だった経済モデルから、サーキュラーエコノミーへと移行し、当社は樹脂の循環リサイクルを実現する責任があります。自動車メーカーは自動運転など高度な車両制御技術等の機能開発の重要性が高まるため、内外装領域の企画・開発、生産性、コスト競争力、品質保証を我々が自立して責任を持つことでビジネスチャンスが広がると考えています。―国内外の工場の動向は。国内はコロナ禍や半導体不足などが収束し、安定的な操業が続いています。広島地区は22年度にテクニカル試験センターを安佐北区三入から本社に集約し、再編プロジェクトが完結しました。立地上の課題が解決し経営効率が一層向上しています。防府地区では好調なマツダのラージ群の生産に対応しており、大分工場や合弁のエイエフティー(滋賀)においても、従来の生産量を取り戻しつつあります。海外は「中米・北米」が堅調で、私自身も携わったマツダ・トヨタのアラバマ工場は生産台数が増え、当社米国工場も昨夏から2直化し、従業員は460人規模に増加。計30万台のフル操業に向け今後も生産増を期待しています。「アセアン」はタイの補助制度変更などで需要が落ち、中国の電動車の攻勢もあり伸び悩んでいます。「中国・韓国」は中国でのマツダの新型電動車EZ―6に期待しています。24年度の設備投資は新型車導入準備や新規部品への投資などを見込んでおり、前期よりは増える計画です。中期経営計画期間は毎期100〜120億円を想定し、新製品対応のほか、顧客の量産に対応した金型投資、CO2削減のための生産設備更新、DX投資などを見込んでいます。DXの本丸は従来のビジネススタイルを作り変える取り組みだと考えており、古くなった社内の六つの基幹システム(生産管理、人事労務管理、コスト管理、財務会計、管理会計、PLM=製品ライフサイクル管理)を段階的に刷新し、各システム間を連携させて効率化を進めます。―新製品や開発研究テーマは。中期経営計画の商品戦略として、「システムクリエイターとして新たな価値を提供」を掲げています。インパネ、コンソール、トリム類の個別開発から、内装システム全体のモジュール/システム開発で、自動車メーカーと同等の開発力を備えたい。最新の開発研究テーマとしては、「人とくるまを心地よく結びつけるインテリア」を目指し、移動空間を快適に過ごせる「Calmテクノロジー」の考えを取り入れた次世代インテリア(内と外をつなぐ全面樹脂ガラスによるサイドドア、光エネルギーを透過する表皮に太陽電池を内蔵したインパネ天面、芳香効果による体感温度の変化を利用した車内の快適空間演出など)を提案し、「人とくるまのテクノロジー展」(横浜)に出展しました。産学官で「劣化しづらい樹脂」の研究も行っています。まずは劣化のメカニズム解明と、劣化した樹脂の復元方法を研究し、劣化しづらい樹脂につなげたいと考えています。電動化、EV化が進んでも、バッテリー以外の部品の軽量化の需要は一層高まると考えており、樹脂製品のさらなる軽量化がポイントです。内外装以外の樹脂製品も現在採用されているバッテリーカバー、冷却水パイプ、給電口、アクティブグリルシャッターなどの拡販に取り組んでいます。―カーボンニュートラルの取り組みは。2050年度での達成に向け、13年度比で27年度に45%、30年度に50%削減の目標を設定。今年2月に本社工場棟屋上、6月にはのり面の太陽光発電設備が稼働しています。今後は大和工場や、主に浴槽などの住宅関連樹脂部品を製造している関東大協の工場などでも計画しています。設備の省エネ化も進めます。例えば塗装乾燥炉の壁面に断熱材を加え放熱を防ぎ、ガス使用量を低減させ、年間132・6㌧のCO2削減効果が出ました。本社工場の塗装ブースの空調に自動制御運転を導入して、消費電力を従来比で約35%削減できました。成形工程での廃棄物削減の取り組みでは、端材を粉砕し他の材料と混ぜ合わせ成形することで、新しい部品としてリサイクルしているほか、成形工程に入る前に不良の発生源をシミュレーションすることで成形後の不具合を防ぎ、廃棄ロス低減につなげています。―これまでで印象深い仕事は。エンジン製造部門を担当し、マツダのDNAであるロータリーエンジンの生産やスカイアクティブエンジンの開発・生産に携わり、ものづくり革新に挑戦する喜びと、夢の実現に向け仲間と共に汗を流した経験が大きな財産です。3回の米国勤務では、異なる思想で開発されたマツダ車とフォード車の生産準備や、同じプロセスで両社モデルを生産する混流生産技術の向上と工場運営を通じて、素直な気持ちで相手と向き合うことに加え、多様な考えの中から新たな発想や価値が生まれることを学びました。直近のトヨタとのアラバマ工場プロジェクトは、新会社設立に向けた事業の企画から現地工場建設、カローラクロスとCX―50導入に向けた準備、従業員採用と研修、会社経営などを副社長として担当。コロナ禍の厳しい状況でしたが、多くの方々の支援と従業員の努力で、両社の知見と技術を融合した唯一無二のものづくりが実現できたと考えています。

プロフィル

すぎやま いくお1963年5月1日生まれ、山口県美祢市出身。87年3月に福岡大学工学部を卒業し、マツダ入社。第1、第2パワートレイン製造部長、本社工場長、執行役員 米国生産準備室副室長兼マツダトヨタマニュファクチャリングUSA.副社長、マツダ常務執行役員グローバル品質・コスト革新担当などを経て、2024年4月からダイキョーニシカワ副社長を務め、6月から現職。趣味は旅行とゴルフで、2回の米国駐在中は家族も同行しており、大型連休を利用して家族で米国やカナダを旅行。単身赴任のアラバマでは週末に日米のメンバーとのゴルフで気分転換を図った。

担当記者:大谷

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