新井采配の特徴の一つは、対戦チームの先発投手を「どう攻略するか」を形で表す〝日替わり打線〟ではないかと思う。今、目まぐるしく変わる打順の中で、一人だけ4月後半から打順を変えない打者がいる。それは22年途中にカープに電撃入団した秋山翔吾である。彼はヒットを量産した西武時代に、主に1番を打っていた。しかし2年間の大リーグ経験の後、カープ首脳の構想は「クリーンアップの一角を…」ということだった。その結果、カープ入団後はまれに1、2番を担ったこともあったが、主に4番の前後(3、5番)を打つことが多かった。その間、私は一部のプロ野球解説者から「秋山はやっぱり1番」という話をよく耳にした。当初はその主旨がよく分からなかった。しかし今季の7、8月戦線を見ていて、ようやくその意味が分かるようになった。彼は1番という打順で、特に1回の先頭打者で強いメッセージを発する。ボクシングで言えば、1ラウンドでの強烈な先制パンチで試合の流れを作ることができるのだ。特に印象に残る打席がある。7月12日ヤクルト戦。5回表まで3-3の同点。その裏、先頭打者として秋山が打席に入った。この〝仕切り直し〟のような場面で、彼は石川雅規の内角高めのスライダーを、体をくねらせてコンパクトに振り抜いた。打球はぐんぐん伸びて右翼スタンドに飛び込む決勝弾となり、カープが4-3で勝利。彼はカープ打線の先頭に立ち、打線を勢いづけるコツを知っている。やっぱり秋山は稀有な1番打者だ。

プロフィル

迫 勝則(さこ かつのり) 1946年生まれ。マツダ退社後に広島国際学院大学部長などを務め、執筆・講演活動を続ける。近著は「森下に惚れる」「逆境の美学」

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