2025年に創立110年を迎える安田学園。幼稚園から小・中・高・大学・大学院を運営し、同年4月には大学内に理工学部を開設するなど、教育環境の充実を図る。また、地域社会との連携も重視。子育て環境に配慮した地域づくりや、地元企業、団体と教育を考える場を意識している。昨年11月に理事長に就いた安田馨理事長に学園の運営方針を聞いた。
-学園の方針を教えてください。学園訓「柔しく剛く」が幼稚園から大学まで貫く基本理念となっています。その土台の基に時代の先進性を取り入れ、「伝統と革新」の両立を目指しています。例えば安田学園では立ち居振る舞いを身に付けます。あいさつや礼儀は人間関係を気持ち良くする潤滑油。礼儀や伝統を大切にしながら、変化に先んじて対応する姿勢を保ちたい。来年大学に開設予定の理工学部はまさに時代と社会の要請に応じて設置します。理系女性人材の育成と活躍を推し進め、設置に伴って新棟を建設予定です。-教育方針について。学生には知識(ナレッジ)や技術(スキル)を学ぶだけでなく、挑戦するマインドを身に付けてほしいと考えています。例えば、ある実験が期待した結果をもたらさなかった場合、その原因を探り、新たなアプローチを試すことが重要です。そうすることで、学生たちはただ知識を得るのではなく、その知識をどのように活用するかを学びます。また、失敗からも学ぶ機会を得るでしょう。このプロセスを通じて、学生は自らの課題解決能力を高め、柔軟な思考を養えると考えます。こうしたマインドを基に安田女子中高では、生徒の主体性を育むよう取り組んでいます。その一環として校則の見直しが生徒によって行われました。教員や保護者からも意見を聞き、対話を行い、建設的に見直しを推進。生徒主体の校則見直しは現在では全国300校以上で取り組まれ、本校がモデルとなっています。-感じている課題は何ですか。現代の教育で重要なのは「飢え」と「刺激」だと考えています。現在の教育カリキュラムは、栄養素がしっかりと考えられた食事のようなものです。しかし、子どもたちは満腹状態に近く、食べたいという欲求が弱いことが往々にしてあります。どのようにして自ら食べたいという欲求と、それを促す刺激を生み出すかが課題。世界の面白さを感じられる体験価値を高め、子どもたちの内発的動機を生み出す工夫をしていくことが必要です。-地域とのつながりはいかがですか。4月に子育て研究所と教育研究所を立ち上げました。子育て研究所は、いきいきと子育てができる環境づくりを目指し、まずは在校生の保護者を対象にセミナーや子育て相談会を実施しています。今後は地域にも門戸を開き、一層地域とのつながりを強めていく予定です。女性は人生の中でさまざまなライフイベントを迎えます。その中で、女性が活躍しやすい社会を実現するために尽力したい。一方の教育研究所は、当学園の教職員の研さんの場として設置したものですが、そこから一歩踏み出して、民間企業で活躍されている人たちへも広げ、8月3日に「ヒロシマ・サマー・ダイアローグ」を実施。共にこれからの教育の在り方について話し合いました。大学や中高でも企業と連携する取り組みが増えてきています。学校と地域が相互に学びと活力を得ていく仕組みを構築していく方針です。-広島県の転出超過について。厳しい状況ですが、広島に根差した教育機関として、地域の皆さんと共に広島の未来を盛り上げたい。学生には広島での就職を願っていますが、県外就職を希望する学生の背中も押してあげたいと考えています。県外での経験は大きな価値となり、将来的にUターンしてくる可能性もあります。そのような人材は非常に貴重です。戻ってきたくなる魅力ある広島を皆さんと共につくりたい。
プロフィル

やすだ かおる1976年1月19日生まれ、広島市西区出身。小学3年〜中学1年まで南アフリカで過ごす。2001年国際基督教大学教養学部国際関係学科卒。04年桜美林大学大学院国際学研究科修了。NPOカタリバなどを経て14年に安田女子大学・安田女子短期大学事務局学長室課長。その後、安田女子中学高等学校副校長、法人本部人事部部長などを経て23年11月から現職を務める。
担当記者:島津