大記録というのは何の予告もなく、かくもたやすく達成されるものなのだろうか。6月のベストゲームを挙げなさいと言われたら、やはり大瀬良大地が史上90人目となるノーヒットノーランを達成した6月7日のロッテ戦だ。大瀬良はその前週、たまたま1999年に佐々岡真司が本拠地で中日を相手に達成したノーヒットノーランの映像を見て、佐々岡に「すごいですね」という内容のメールを送っていた。すぐにそれに佐々岡が「ありがとう」と返す。そのイメージがあったのだろうか。大瀬良の投球は、まるでこれを再現するかのようだった。立ち上がりの大瀬良は、決して好調には見えなかった。4回までなんとか無安打無失点。4回裏に飛び出した野間峻祥の2点三塁打で先制したのが大きかった。大瀬良らしい粘り強い投球に拍車が掛かる。6回に小園海斗の2点三塁打が出て、いっそう投球が楽になり尻上がりに調子を上げた。新井貴浩監督が「6回が終わったあたりから、ずっと球数を見ていた」と明かす。その雰囲気が出てきたのは7回に入ってからだった。7回裏に打席に向かう準備をしていたら、田中広輔がベンチの中で「8回も行くの?」と聞いた。田中はそこまで大瀬良が無安打投球であることを知らなかったのだ。さらに右翼を守る野間は、9回のマウンドに向かう彼の姿に大歓声が起きた時、はじめてこの大記録に気付いた。そして最後の球を自らのグラブに収めた。試合後、大瀬良のところに大量の祝福メール。その中には昨季までカープに在籍したマクブルームのものもあった。

プロフィル

迫 勝則(さこ かつのり) 1946年生まれ。マツダ退社後に広島国際学院大学部長などを務め、執筆・講演活動を続ける。近著は「森下に惚れる」「逆境の美学」

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